December 18, 2023

国際的な場での情報交換と連携強化:浜松市楽器博物館のCIMCIMにおける活動

浜松市楽器博物館 学芸員
石井紗和子

浜松市楽器博物館とCIMCIM

浜松市楽器博物館(以下、当館)は、浜松市の掲げた「音楽のまちづくり」の一環として1995年に開館した楽器の博物館である。世界の楽器を地域に偏りなく収集・保存し、「楽器や音楽を通じて、それぞれの地域や時代に生きた人々の文化を紹介すること」を趣旨として展示やコンサートなど数多くの事業を展開してきた。1995年にICOMに加入し、2014年からはCIMCIM(International Committee for Museums and Collections of Instruments and Music/楽器と音楽の博物館・コレクション国際委員会)の年次会議にも参加している。

CIMCIMはICOMに所属する国際委員会のひとつである。1960年の設立以降、楽器と音楽資料の活用・保存に関わる活動の推進や基準の策定を主な目的として組織されてきた。年に一度会議が行われ、数日間の日程で発表やパネルディスカッション、関連施設見学、レクチャーコンサートなどのプログラムが催される。

これまで当館は年次会議において、企画展・特別展のほか、所蔵楽器を用いたCD制作やコンサート、ワークショップなどに関する発表を重ねてきた(写真1)。2019年のICOM京都大会ではCIMCIMの会議の運営委員としてプログラムを調整し、当館を含む関連施設へのエクスカーションを企画・実施した(写真2、3)。

写真1 2018年 中国での年次会議 和楽器の製作・演奏体験ワークショップの試みを発表
写真2 2019年 ICOM京都大会 CIMCIMエクスカーションでの当館見学の様子
写真3 2019年 ICOM京都大会 当館での集合写真

国内においては、世界の楽器を扱う博物館はごく少数であり、コレクション管理・活用の事例が限られる。そのため、CIMCIMでの活動を通して世界の楽器博物館と関係を築き、参考となる事例を海外から学びとっていくことが欠かせない。また、国内唯一の公立楽器博物館として、日本の音楽文化について発信する役目も担っている。

筆者は2021年よりCIMCIMの年次会議に出席している。本稿ではまず、これまで筆者が会議で発表した概要に触れる。続いて、今年8月30日から9月1日にかけてオランダで開催された年次会議の発表および動向について報告する。

CIMCIMの年次会議で近年発表した当館の取り組み

2021年、CIMCIMの年次会議が2019年のICOM京都大会ぶりに開催された(2020年は新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止)。Global Crises and Music Museums: Representing Music after Pandemic(世界的な危機と音楽博物館—パンデミック後の音楽を提示する)というメインテーマで、ヴァーチャル展覧会の開催やデジタルプラットフォームとしてのデータベース構築などについて報告があった。当館も、コロナ禍の休館を機に着手したオンラインでの取り組みを、「コロナ禍におけるオンラインでの博物館教育」の事例として発表した(写真4、5)。オンライン開催であったため、参加者との対面こそ叶わなかったものの、コロナ後を見据えた各館の活動や展望を共有しあう貴重な場であった。

写真4
2021年 オンラインでの年次会議
動画制作やヴァーチャルミュージアム開設などの教育普及活動について紹介
写真5
当館で制作した動画「家にあるもので楽器をつくってみよう」を再生しながら説明

2022年の年次会議は、ICOMプラハ大会中に行われた(現地とオンラインのハイブリッド開催)。Music Museums: Social and Environmental Responsibilities and Identities in the 21st Century(音楽博物館—21世紀における社会と環境に対する責任とアイデンティティ)というメインテーマのもと、音楽博物館の「脱植民地化」や、音楽遺産の保護・継承といったトピックで、20件弱の発表があった。
この会議では、伝承の危機にある琵琶、それと深く結びつく日本の文化やアイデンティティの保存・継承を目的とした企画展での試みについて報告した(写真6、7)。

写真6 2022年 ICOMプラハ大会
CIMCIMの会議にて、企画展「琵琶 こころとかたちの物語」での展示上の工夫について発表
写真7地元企業と協働で取り組んだ、琵琶の生音演奏を再現するプロジェクトについて
デモンストレーションを交えて紹介

CIMCIM年次会議2023の発表および動向

今年の年次会議はProspects and Challenges of Museum Accessibility, Diversity and Equity(博物館におけるアクセシビリティ・多様性・公平性への展望と挑戦)をメインテーマに、8月30日から9月1日の日程で行われた。オランダのアムステルダム、ユトレヒト、アーメルスフォールト、ヘールデの各会場とオンラインのハイブリッド開催で、約130名が参加した(うち現地参加は96名)。発表者は20ヶ国から70名にのぼり、これまでにない規模となった。一人あたりの発表時間は例年より短くなったものの、そのぶん多くの事例に触れる機会となった。

当館はAPPROACHES TO INCLUSIVITY AND DIVERSITY(包摂性と多様性への取り組み)というテーマのセッションにおいて、2000年から取り組んできたアウトリーチプログラム「移動楽器博物館」について発表した。このプログラムは、市内の小学校に出向き、世界の楽器に関して授業を行うものである。子どもを博物館利用者として包摂する取り組みとして、20年以上にわたって実施している。子どもは大人と比べて、当館の情報を得ることや自力で来館することが難しい。また、「敷居が高い」「規則や制約が多い」という印象から、博物館に訪れるのをためらう子どももいるかもしれない。このプログラムは、子どもが抱えるそういった課題を乗り越える「楽器博物館への入口」として、楽器と触れ合う楽しさや驚きを体験する機会の提供を目指している。さらに、楽器を「音を奏でるもの」としてだけでなく「それが生まれた国・地域の文化や生活様式、自然環境などについて教えてくれるもの」として提示し、国際理解教育に貢献するという目標も掲げている。発表では、「移動楽器博物館」で扱う楽器を3つ取り上げ、どのように解説しているのかを紹介した。また、授業の様子を映像で再生し、クイズや双方向のやりとりなど、子どもの興味を持続させるための工夫についても話をした(写真8)。そして、子どもたちの感想ノートから「今度は博物館にも行きたい」、「これまで楽器に興味はなかったけれど、自分で鳴らしてみて、もっとたくさんの楽器の音を聞いてみたくなった」というようなコメントが得られたことを報告した。

発表後、会場では「子どもたちの生き生きとした姿や職員との掛け合いが見られて良かった」という声をいただいた。一方で、楽器の素材が「それが生まれた国・地域の自然環境を教えてくれる」とは限らない、「移動楽器博物館」を通じた博物館体験は、歴史的な楽器を展示する博物館での体験と同一ではない、という指摘も受けた。ここで得られた複眼的な視座は、今後このプログラムやその他の博物館活動を改良していく上で大変有益である。

写真8 2023年 オランダでの年次会議
動画を見せながら移動楽器博物館について発表

包摂性と多様性への取り組みとしては他に、視覚や聴覚に障がいのある利用者を想定した鑑賞ツールの開発や、音楽や楽器製作の歴史における多様な存在に光をあてる研究・展示などについて発表があった。別のセッションではSOUND ACCESSIBILITY(音へのアクセシビリティ)やDIGITAL ACCESSIBILITY OF MUSICAL INSTRUMENT COLLECTIONS(楽器コレクションのデジタルアクセシビリティ)といったテーマで、特にデジタル技術の活用事例が多く紹介された。またTRANSFER OF COLLECTIONS FROM PRIVATE TO PUBLIC SPACES(個人コレクションの公共空間への移動)というテーマのセッションでは、近年大学や博物館に寄贈された個人コレクションの紹介や、その研究・展示に関する事例報告があった。

楽器博物館の国際的な動向として、ディスカッションのテーマにもなった「Provenance(来歴)」への関心の高まりにも触れておきたい。この年次会議で行われた基調講演の言葉を借りると、所蔵品の来歴(博物館の収蔵に至るまでの所有者の変遷)は、その物品の合法的な所有権を証明し、法や通関、犯罪などに関わる複雑な事態を回避する有効な情報である。博物館が「倫理」を問われるなかで、略奪や盗難など不正な経路で収蔵された物品を明らかにし、適切な所有者に返還する動きが欧米の博物館を中心に高まっている。CIMCIMでも2025年までの活動計画に「来歴」というキーワードが挙がっており、ワーキンググループを中心にこの課題への対応が検討されている。

年次会議の「来歴」に関するセッションでは、10名の発表者から各自の所属施設と国における来歴調査の状況について報告があった。内容は、⑴来歴に関する条件や実践の有無、⑵物品を入手する前の手続き、⑶ICOM国内委員会またはその他の専門機関の提供するガイドラインの有無、⑷来歴調査に関する国レベルのガイドライン、ツール、リソースの有無についてであった。このセッションに、筆者も日本の発表者として登壇した(写真9)。事前の準備にあたって日本博物館協会に問い合わせたところ、ICOM日本委員会および国のレベルでは適当なガイドラインやツールは公開されていないとのことであった。発表では上記の現状と、浜松市楽器博物館における手続きについて伝えたうえで、日本の博物館による収集は国際的なICOM倫理規程に則って行われていること、日本博物館協会が提言する「博物館の原則・博物館関係者の行動規範」の中で収集にあたっての倫理に言及する文章があること、アート市場拡大に向けた行政の事業において来歴調査への関心が増していることなどを報告した。今回の登壇者の何名かは一度発表を辞退したというが(筆者もこれに含まれる)、司会者は、来歴調査に関する情報がないということもまた重要な情報であったと述べてこのセッションを締めくくった。すでに実践されている来歴の調査・情報管理に関しては後に続くセッションで発表があり、コレクションの略奪や破壊の危機にさらされているというウクライナの楽器博物館からの現状報告もオンラインで行われた。

「来歴」の重要性について、日本では活発な議論がなされているとは言いがたい。しかし発表者のひとりであったインドネシア国立博物館の学芸員によると、同館が所蔵する音楽関連資料の来歴を示す書類は日本の植民地支配下で失われたと考えられている。日本もまた、自国の占領が他国の文化財やコレクションに及ぼした影響について意識的になる必要があると感じた。

写真9 2023年 オランダでの年次会議
「来歴」に関するセッションで日本の現状を報告

年次会議の期間中は、会場となった各博物館の展示や保存修復施設を見学する機会もあった。最終日に訪れたCollectieCentrum Netherlands(CCNL、オランダ コレクションセンター)は、国のコレクション管理を担う4つの機関 の協力により設立された大型収蔵施設で、楽器だけでなく、絵画や工芸品、大型の馬車や貴族の王座まで、多種多様な資料が保管されていた。専門家から話を伺う時間もあり、楽器の効果的な展示・収蔵手法について新たな知見を得ることができた。

浜松市楽器博物館のCIMCIMにおける活動から考える、国際的な場への参加意義

国際的な場での情報交換・連携強化は、博物館における事業運営の一助となる。今年の年次会議においても、発表や施設見学などから現場で活かされる参考事例を豊富に学ぶことができた。他館の専門家たちとの関係も深まり、当館の所蔵品に関して直接情報を得たり、来年度に計画している展覧会に関して「なんでも相談してほしい」という心強い言葉をいただいたりした。また、親しくなった学芸員から年次会議後に同僚のアジア担当学芸員の紹介を受けることもあった。2年後に日本の楽器の展覧会を実施するにあたり、早速来年初旬に当館への来館を検討するとのことだった。互いの展示の充実はもちろん、日本の音楽文化についての国際的な理解向上などにも貢献できる繋がりが生まれたことに大きな手応えを感じている。

発表を通じた取り組みの発信もまた、より良い博物館活動を展開していくために必要なプロセスである。参加者から受けた専門的な意見や助言は、現行の取り組みを評価する上で、あるいは今後改善を図る際に、重要なヒントとなるからだ。また、過去に発表したことを覚えている参加者もおり、年次会議ではその話題から会話が発展することもあった。継続的に会議に参加し発表を重ねていくことは、館の認知向上にも繋がるのである。国内はもちろん国外の理解者や協力者がいて初めて、世界の楽器を扱う博物館としての使命を果たすことができると考えている。

国際委員会への参加は、博物館の国際的な潮流を知るという点においても重要である。上述のように、CIMCIMが扱うテーマやトピックは、楽器コレクションに特化する問題だけではない。新しい博物館定義に掲げられた「inclusive包摂的であること」「operate and communicate ethically倫理的な活動やコミュニケーションを図ること」といったような、博物館あるいは社会全体に共通する課題と向き合っている。今後はこうした課題に対するCIMCIMの実践的な活動についても、国内で紹介できる場を持つことができれば幸いである。

写真10 オランダでの年次会議
Rijks Museum(アムステルダム国立美術館)での集合写真

(いしい さわこ)

浜松市楽器博物館 ウェブサイト