November 17, 2021
新型コロナウイルス感染症禍での千葉県立中央博物館本館の取組み
[2021.11.17]
千葉県立中央博物館 研究員
丸山 啓志
はじめに
千葉県立中央博物館(以下、中央博)は、房総の自然と人の営みを取り扱う総合博物館であり、千葉市にある本館と、香取市にある大利根分館、大多喜町にある大多喜城分館および勝浦市にある分館海の博物館からなる。
まず、筆者の勤務先である本館について紹介する(図1)。中央博の本館展示室の展示は「房総の自然と人間」を全体テーマとし、「房総の地学」「房総の生物」「生物の分類」「小動物」「海洋」「房総の歴史」「自然と人間のかかわり」の7つの展示室で構成され、さらに「体験学習室」「企画展示室」を持ち、展示室面積は4,291 m²である。[1] この他に、野外観察地としての生態園を併設する。
中央博の使命として、「千葉県立中央博物館は、地域の市民と共に、自然と歴史に関わる資料・情報を収集・蓄積すると共に、基礎的・国際的視野に立つ科学研究により、その新たな価値を発見し、教育、展示、その他全ての博物館活動を通して県民や市民に発信し、県民共有の知的資産として未来へ伝える。また、千葉県の中核的総合博物館として、さまざまな市民の幅広い知的ニーズに応えつつ、双方向の交流を通して、生涯学習拠点となる。」ということが掲げられている。[1]
この使命の下、当館の教育普及活動として、各種専門を活かした講座、現地での野外観察会、気軽に専門的な内容に触れることのできる体験イベント、展示を解説するツアー(ミュージアム・トーク)などを実施している。以下、千葉県立の中・大規模館が未曾有の災害である新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)禍にどう直面し、どのように対処してきたのか、紹介する。
中央博本館におけるCOVID-19への対策
2020年初頭より顕在化したCOVID-19は未だ収束の目処が立たず、2021年10月で第5波がやっとおさまる状況である。そこで、2021年10月上旬までの対策について紹介する。
2020年2月にCOVID-19感染拡大第1波が本格化し、2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発出された。当館では、3月3日〜5月25日に1度目の臨時休館を実施した。2021年1月COVID-19感染拡大第3波が本格化し、2回目の緊急事態宣言が発出された。当館では、1月9日〜3月22日に2度目の臨時休館を行なった。[1]
このように変化する状況にあわせて、COVID-19対策は3つのフェーズに分けられた。まず、2020年2月から6月にかけての第1フェーズ、2020年7月から2021年3月にかけての第2フェーズ[1]、そして、2021年4月からの第3フェーズである。
第1フェーズでは、感染拡大防止に主眼を置いた対策として、日本博物館協会感染拡大予防ガイドライン[2] に基づき、三密対策や、職員による検温や入館確認票記入の依頼など入館時・観覧時における制限を設け、来館者や職員への感染防止対策を実施した。第2フェーズでは、長期化する流行下で博物館事業を安全に実施していくための措置を目的として、三密対策などは継続するものの、感染防止に配慮した上での博物館活動の充実を目指し、教育普及活動(講座・観察会)や一部施設の再開、ボランティア・市民研究員の一部制限解除などが行われた。[1] 第3フェーズでは、より制限を緩和することで、博物館事業の活性化および来館者の負担の軽減を目指し、学校団体受入の再開や入館時の手続きの簡略化が行われた。
以上のように、各段階において、COVID-19感染拡大防止と博物館事業の活性化のバランスを図りながら、活動が進められた。
COVID-19禍における教育普及活動(筆者の経験に基づいて)
ここでは、筆者が担当または補助で関わってきた教育普及活動について、事業開催の成果と反省点を振り返る。
2020年度(2020年4月〜2021年3月)については、2020年9月まで対面イベントの全てが中止となった。その間、筆者は、利用者として他館などのイベントに参加し、自館でのイベントに還元するために、知見を深めた。そして、新たな取り組みとして、2020年12月千葉県地学教育研究会にて「哺乳類化石の見方:博物館を楽しむためのちょっとした工夫」というオンライン講演会を実施した。展示室の利用が制限されたこともあって、発表内容に展示物の写真を加え、オンラインというバーチャルと、展示室や標本・資料といったリアルとの橋渡しとなるように心がけた。一方で、オンラインでの活動については、各研究会などでソフトには多少慣れていたつもりだったが、実際の演者となると、スライドと実物といったモノの見せ方などの勝手の違いに直面し、大いに反省することとなった。
2021年度(2021年4月〜10月)では、感染状況を鑑みながら、実施可能となった具体的な例を以下に紹介する。6月に開催した野外観察会「海岸で化石を探そう」では、通常よりも定員を減らす一方で、スタッフの数を増やし、三密対策をとるようにした。また、参加者間での標本や道具のやりとりを減らすように、参考となる標本については観察のみにするなど工夫を行なった。そして、新しい試みとして、ワイヤレスガイドシステムを用いた解説も行なった。しかしながら、海岸沿いでのワイヤレスガイドシステム使用は音声が聞き取りにくく、コードが絡むことによる危険性も見られ、うまく機能しなかった。あわせて、野外観察会におけるマスク着用による熱中症発症リスクについては懸念が残った。[3] 7月に開催した盲学校の児童を対象とした授業および8月に開催した地学講座「セキツイ動物の比べ方」も同様に、定員を減らし、参加者ごとの距離を十分にとるようにした。また、参加者間での標本のやりとりを減らすために、配布標本であるブタの頭骨を参加者全員分用意するなどの工夫を行なった(図2)。また、講師である筆者は、フェイスガードなどで感染症対策を実施した(図3)。
このような制約の多い講座であったが、実際に標本を触って、比べてという活動は、参加者にとっても満足度の高いものとなった(図4)。改めて、COVID-19禍であっても標本・資料を触るという活動が重要であり、この活動を続けていくためには、今後も様々な工夫が必要であることを実感した。今回の授業を受けて、盲学校の授業は11月も化石をテーマに引き続き実施する予定である。
千葉県に発出された3度目の緊急事態宣言が解除された2021年10月から、約1年半ぶりに定例のミュージアム・トークが開催された(図5)。このミュージアム・トークで、筆者は補助として参加した。こちらでは、これまで設けていなかった定員を定め、ワイヤレスガイドシステムを用いて、解説が行われた。解説自体は特に問題なく、参加者間の距離も十分にとられながら、スムーズに行われた。ただ、解説後の質疑応答や参加者間の対話が制限されており、講師と参加者のやりとりについては、まだまだ改善の余地があると感じた。
以上のように、利用者向けへのイベントは1回1回試行錯誤の連続で、実施を繰り返す度に、新しい知見と反省点を得ながら、以前と全く同じ形で実施できないものの、ウィズコロナを見据え、教育普及活動に取り組んでいる。
COVID-19禍がきっかけとなった取り組み
COVID-19禍によって、様々なことが制限された。しかしながら、臨時休館などをきっかけとして、全館的に進んだ活動も挙げられる。
例えば、常設展示の更新である。「房総の地学」展示室においては、ナウマンゾウの生体復元模型や写真の導入が行われた(図6)。また、近年話題となったチバニアンについての解説コーナーも新しく設けられた(図7)。そして、家庭でも博物館を楽しめる活動としての「おうちで中央博」が立ち上がり、ぬり絵や双六などのコンテンツが利用できるようになった。この他にも、標本整理などをCOVID-19禍前よりも落ち着いて実施できた。このように、COVID-19禍によって、普段は他の業務との兼ね合いでなかなか進められない事業についても新たに進み、当館にとってプラスとなることも起こっている。
今後について
COVID-19禍を受けて、当館では様々な制約の中で、博物館事業を進めてきた。その中には、これまでの事業をどのように継続していくかという視点だけでなく、このピンチをチャンスに変える行動も重要であると考える。今後についても、まだまだ先行きが不透明ではあるが、少しでも来館者・利用者が楽しんでもらえるように工夫を続けていきたい。
(まるやま さとし)
- 千葉県立中央博物館,2021.千葉県立中央博物館 年報33(令和2年度)
- 公益財団法人日本博物館協会,2020.博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン.博物館研究 55 (11): 76-83.
- 橋本佳延・鬼本佳代子・丸山啓志・髙尾戸美・邱 君妮, 2021. 博物館における総合的な新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン策定の提案.博物館研究 56 (2): 25-28.