October 1, 2021

コロナ禍の博物館活動を支える様々なつながり

[2021.10.1]

多摩六都科学館 研究・交流グループ リーダー
髙尾 戸美

昨今のミュージアムが取り巻く環境の変化を受け、ICOM会員である日本のミュージアム関係者の方々が、この未曾有の危機をどのように据え活動を継続しているのか。「会員レポート:ミュージアムの現場より」と題してコラムをお伝えします。

2020年2月以降、国内の多くの博物館に新型コロナウイルスの影響が出始めてから約1年半が過ぎようとしている。筆者の所属する多摩六都科学館(以下、当館と記す)は東京都に位置していることから、5度の緊急事態宣言が発令され、2度の臨時休館を経験することとなった。混乱期から現在に至るまでの博物館活動を支え続ける“つながり”について、組織・地域・個人の3つの視点からふりかえってみたい。

はじめに~コロナ禍前の科学館

当館は、東京都の多摩北部エリアにある6つの自治体1が共同で設置し、1994年に開館した地域のための科学館である。「誰もが科学を楽しみ、自分たちの世界をもっと知りたいと思える多様な学びの場の創出」と「地域づくりに貢献すること」をミッションとして掲げている。世界中の科学館と同様に、常設展示室には数々の体験型の展示アイテムだけでなく生物、化石、鉱物標本が並んでいる。また世界一に認定された1億4000万個を超える星々を映し出すプラネタリウム投映機を有している。いつでもプログラムを体験できる常設のラボと毎週末開催されるプログラムは、利用者とボランティアやスタッフとのコミュニケーションを通じて科学を楽しみ、学ぶことができ、これらは当館の最大の特徴ともいえる。週末や長期休暇には多くの利用者でにぎわっていた。

しかしながら、我々は新型コロナウイルスの感染拡大以降、利用者数の増加を目指す運営の在り方や、ボランティアを含むスタッフと利用者のコミュニケーション主体の運営を見直す必要があった。これらはこれから先の私たちが、公共施設としてどのような存在として地域と利用者のために具体的な事業を展開していくのか、また指定管理者施設として経営の在り方について図らずとも再考する契機をもたらした。

市民感謝デーでにぎわう館庭の様子

1.組織内外とのつながり

(1)設置者
当館の設置者は特別地方公共団体である多摩六都科学館組合(以下、組合と記す)であり、この形式は国内の博物館運営形式としては珍しい。2012年に指定管理者制度が導入され、株式会社乃村工藝社が2期目として運営を担っている。設置者である組合は、科学館内に事務所があることから指定管理者と日常的に細かな課題やその対応についても共有、検討し解決を図ってきた。コロナ禍においてもそのスタンスは変わらず、臨時休館を含む様々な対応の判断は、国や行政の判断を参考にしつつも協議と双方の合意において決定されてきた。

また、組合は、利用者の安全を第一とした上で、可能な範囲での事業を継続すること、その実現のためスタッフの雇用を確保するとの基本的な考えに基づき、利用者数減2に伴う利用料金収入への影響額の補填を議案として議会に提出し、議決を得た(2020年10月)。補填額は経費削減など経営努力を前提とした5,000万円である3。これらの設置者の努力及び信頼関係の下、我々現場のスタッフが困難を乗り越えるために新たな取組に挑戦することができる環境が維持されているといえる。

(2)ボランティア
当館には2000年に設立されたボランティア会があり、シニア105名、ジュニア(小学5年生~高校生)28名が在籍している(2021年9月現在)。シニアボランティアは、曜日および分野による班があり、利用者対応やプログラムの実施、アウトリーチ等を展開していたが、2020年2月以降その活動を休止している。

ジュニアについては、2020年秋以降、緊急事態宣言が発出されていない期間については時間と人数を限定した上で利用者との接点がない活動として「ジュニアボランティア通信」の作成を行っているが、シニアに至っては未だに活動は再開されていない。

ボランティアとのつながりを絶やさぬため、ボランティア担当スタッフは、2か月に一度当館発行のニュースとともに、各ボランティアからの便りをまとめて、情報交換の便りを送付している。ワクチン接種が進みつつある今、他館の活動再開の声も届いているが、活動の再開時期は、ボランティア会とともに慎重に検討する必要があると考えている。

(3)科学系博物館団体
国内の科学系博物館の団体としては、全国科学博物館協議会(全科協)全国科学館連携協議会(連携協)があり、当館は双方に加盟している。双方のメーリングリスト情報は、これまでは巡回展事業のお知らせや職員募集等が多かったが、特に全国科学博物館協議会から提供される文化庁や日本博物館協会からの新型コロナウイルス関連の事務連絡情報は運営に関係するため役立つものが多い。また研修や研究発表大会、季刊誌等といったゆるやかなつながりの中で各館の具体的な取組を相互に学びつつ事業運用のヒントを得ることも有効であると考えている。

2.地域のつながりが育むプログラム

当館では、基本的に講師都合を除き、開館時にプログラムを中止することはない。2020年6月以降再開館以来、ガイドラインに沿って新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じているからである4。ここでは、コロナ禍における地域連携プログラムについて2つ紹介したい。

(1)オンラインプログラム
当館では、臨時休館の経験を経て、状況に応じてオンラインによるプログラムを展開可能な機材の整備をするともに、オンラインに特化したプログラムの開発や運用経験を積み上げてきた。その第1歩を踏み出すことが出来たのは、2020年6月20日に実施した新型コロナウイルスに関する講座「“新型コロナウイルス”ってなーに!? コロナに負けない!身体の作り方 Zoom講演会」であった。この講座は清瀬市に所在する明治薬科大学セルフメディケーション学研究室石井文由教授等の協力で実現した。同研究室とは数年来にわたり多摩北部圏域市民の健康づくりを目指し、当館と協働で研究活動を行っていることから実現した。互いに初の試みであったが、その後も双方向性のオンラインプログラムを継続しており、双方の活動の幅が広がった形となった。

「“新型コロナウイルス”ってなーに!? コロナに負けない!身体の作り方 Zoom講演会」の様子

(2)野外観察会
当館では、地域の市民活動家の協力を得ながら様々な野外観察会を実施している。筆者はチームの仲間と共に考えた末、緊急事態宣言下の2021年8月、海外にルーツを持つ親子を主な対象に川の生き物観察会を実施した。夏らしい青空の下、参加者は初めてのタモ網を使いこなし、複数の生き物を採集、夢中で観察を行った。

共にプログラムを運営してくれた市民活動家の一人は、コロナ禍以降ずっと活動が出来ておらず観察会そのものが久しぶりであったこと、参加者の保護者からはコロナ禍の外出自粛のため、この観察会だけは非常に心待ちしていたこと、そしてこの夏唯一の想い出となったというコメントをもらった。新型コロナウイルス感染拡大防止のためには十分な配慮が必要であることは言うまでもない。しかし、我々が博物館活動を続けることで市民活動家の活躍の場をつくり、参加者がコロナ禍の夏に地元の河川で生き物を採集し、観察する機会を提供できたことは、地域貢献を目指す当館の役割として重要な活動であったと考えている。

参加者は黒目川(東久留米市)に入り自ら魚を採集した
やさしい日本語で解説する冊子を使って参加者に解説をする市民活動家

3.博物館人の一人として

筆者は、ICOMをはじめとする博物館に関連する複数の学協会団体に所属しているが、この他、博物館スタッフ有志でFacebookグループ「ミュージアムの新型コロナウイルス対応情報共有」を2020年2月24日から運営している。同グループは各施設がWEBやSNSを通じて公表した新型コロナウイルスによる影響を共有することが目的であり、2021年9月現在で877名が参加している。設立当初は、学校の一斉休校に伴う臨時休館対応について各館が対応に頭を悩ませていた時期であった。そのため個々の情報統制に触れることなく共有しやすい公式情報だけでも共有できればという想いで始めた。グループの情報は当初ほどではないが現在も新型コロナウイルスの感染拡大の波にあわせて各地から寄せられている。

また、同グループの情報交換の在り方として、直接対話の必要性から派生したオンラインイベント「COVID-19*Museums Online café」を有志と共に2020年5月から開始した。月1度の頻度で行い2021年7月現在15回開催している。参加者はこのイベントに興味を持つ人であれば誰でも参加することができるが、発言する機会とそれらを共有できるサイズ感を大切に約20名程度で実施している。これまでに取り上げたテーマは、各館の現状共有、ガイドラインの見直し、海外の博物館の新型コロナウイルス対策、オンラインプログラム、利用者との関係についての再考、コロナ禍の教育プログラムの展開等の事例紹介と繰り返すコロナ禍の影響による悩みなどの共有などである。ガイドラインの見直しについては、有志で案をブラッシュアップし、博物館研究へ投稿を行った5

筆者にとっては、地域、館種、施設規模、運営形態、職種などそれぞれのおかれた立場を超えて気軽に対話できる機会はそう多くないため、各回の話題提供者や参加者から様々な示唆だけでなく、所属組織の取組を見直し、今一度挑戦してみようという勇気や元気をもらうことが多い。参加者からも同様なコメントがあり共感が生まれていることを実感している。これらの活動はコロナ禍が落ち着くまで継続していくが、今後はコロナ禍対応について語り合うのではなく博物館界が抱える本質的な課題について対話していくような場にシフトしていくことも考えられるだろう。

おわりに

本稿では、コロナ禍における当館の博物館活動を支えるつながりを中心に私的な振り返りをさせていただいた。国内では、自由な移動が制限され、対面によるコミュニケーションの機会が限られる状況がしばらく続くことが予想される。しかしながら発展的な博物館活動を続けるためには、日常業務を共に行うスタッフ間による発想だけでは厳しい状況にきている。オンラインであれ、オンサイトであれ、この先、これまで以上に多様な人々や組織間の “つながり”が各施設の博物館活動を支える上で一層重要となるであろう。そして、その多様な“つながり”の創出のためには既存のネットワークを超えたなんらかの新しいネットワークの形も必要となるのではないだろうか。

当館では毎朝スタッフミーティングを行っており、コロナ禍以降もフィジカルディスタンスを保ちつつ継続している。スタッフ一人ひとりが紡ぐつながりが当館の活動を支えている。

(たかお ひろみ)

多摩六都科学館ホームページ


  1. 田無市、保谷市(現在、両市は合併して西東京市となっている)、小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市
  2. 休館や滞留者数の制限等に伴いコロナ禍以前と比較し、利用者が244,000人(2019年度、ただし2019年2月27日から3月31日までは臨時休館している)から80,000人(2020年度)と約三分の一に減少した。
  3. 補填額は、コロナ禍前3年間(2017年度〜2019年度)の実績の平均を2020年3月から6月までの実績および同年7月〜2021年3月までの見込み額との合計を比較したもので、7月以降は、利用者数約64%の減少を見込んだ。
  4. 髙尾(2020)「コロナ禍における科学館活動と感染症の伝え方―多摩六都科学館の事例を中心に」日本博物館協会、博物館研究vol.55 No.11(No.630) pp.2-3。
  5. 橋本・鬼本・丸山・髙尾・邱(2020)「博物館における総合的な新型コロナウイルス感染症予防ガイドライン策定の提案」日本博物館協会、博物館研究vol.56 No.2(No.633) pp.26-28。