September 1, 2021

コロナ禍での博物館活動の焦点は何か:京都文化博物館の努力と工夫

[2021.9.1]

京都府京都文化博物館 学芸員
村野 正景

昨今のミュージアムが取り巻く環境の変化を受け、ICOM会員である日本のミュージアム関係者の方々が、この未曾有の危機をどのように据え活動を継続しているのか。「会員レポート:ミュージアムの現場より」と題してコラムをお伝えします。

新型コロナウイルスのまちへの影響、博物館への影響

京都文化博物館の所在する京都市では、2020年1月30日に新型コロナウイルス感染者が初めて確認された(国内12例目)。その後の感染拡大による負の影響は多方面にあらわれている。その一つが観光で、京都は特にそれをまちづくりの基幹ともしていただけに、ダメージは甚大である。それでも、同年の3月ごろは、観光客がいなくなったことに「ちょうどこのくらいがよい」という声もあった。それまで観光公害ともいうべき観光客の集中が問題にもなっていたからだ。しかし6月ごろには状況は極度に悪化し、筆者の普段からおつきあいのあるギャラリーや修学旅行生の定宿となっている旅館の方々からも「本当に困っている」という切実な声をうかがった。それから約1年の間にも、閉まったままのホテルや空き店舗は増え続けている。

京都府における感染拡大に対する措置で、博物館活動に直結するものは、まず2020年2月25日に国から示された「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」があった。これに基づく京都府からの要請で2月28日から3月23日まで展示室を閉めた。さらに京都で初のクラスター発生確認後、4月2日の府市合同の緊急のお願い、続いて国の緊急事態宣言を受けた4月17日から5月21日までの京都府における緊急事態措置により、博物館は4月4日から5月18日まで休館となった。翌2021年はじめの2度目の緊急事態措置では博物館は営業を続けたが、3度目のそれによって4月25日から5月31日まで再び休館した。この間、長きにわたって準備してきた展覧会は中止に追い込まれ、展示替えした作品を誰にもみていただけず閉幕することにもなった。来館者は途絶え、例年から約6割の減となった。現在も博物館、それに館の貸店舗出店者や展覧会の館以外の主催者などにとって経営上の深刻な問題が生じている。

2020年5月12日看護の日 ささやかながらブルーライトを博物館別館で灯した

努力と工夫の積み重ね

このような状況下で、私たちは何をおこなうべきだった/であるのだろうか。正直、筆者は正しい答えがいまも見つからずにいる。ただ実際の現場では、博物館スタッフが、小さいかもしれないが、多数の努力と工夫を積み重ねてきた。博物館で、感染者との接触確率がもっとも高いフロントヤードのスタッフたちは、高い緊張感をもって、どのような導線で受付をして、どう体温確認や消毒をお願いし展示室にご案内するかを議論し、模擬実験して、日々少しずつ改良を加えていた。バックヤードのスタッフも、お客様受入れに万全を期すため、検温システムやその機材、消毒設備、感染予防を促すパネル類の作成や設置を迅速に進めていたし、京都府などと綿密に連絡をとりあって、館のスタッフたちがいつも最新の情報を得られるようにしていた。施設担当のスタッフたちは、博物館の貸スペースでのイベントが続けられるよう、イベント実施者と相談しながら、オンライン化の工夫を重ねた。

2020年5月頃 展示室への導線の一部。シンプルな導線に改良したところ。
2020年5月頃 フィルムシアター。上映時の暗がりでも隣席と接しないよう目立つ印をつけた。

学芸員もできることを探した。2021年6月開幕の「さまよえる絵筆-東京・京都 戦時下の前衛画家たち」展担当の学芸員は、その準備中、板橋区立美術館との巡回展であるためオンラインで連絡をとりあっていたが、筆者がたいへん驚いたことに、著作者のご遺族へのインタビュー調査、それに作品調査すらもオンラインで実施していた。巡回展の参画館が府域をまたいでいる強みを活かし、他館の域内調査実施時に、iPad等でライブ接続しながら、遠隔地から調査に参加したのである。どこも同じだろうと思うが、当館でもコロナ禍によってオンライン会議は日常化した。しかし調査やインタビューまでのオンライン化は新たな試みであった。

博物館間・学芸員間という以外でも、学芸員は連携事業の実施可能性を高めようとした。筆者は、京都府内の学校(小・中・高)に所在する様々な資料を、学校教員や生徒らとともに調べ、整理し、発信する事業を2014年ごろからおこなってきた。そして学校所在資料を広く紹介する展覧会では、1年間の学習成果を生徒らに語ってもらうため、生徒による展示案内を企画し、実施した。2020年9月からの展覧会もその予定はあったが、コロナ禍により、SNSを使った形を模索した。教員や生徒らと相談し、「【学校所在資料展】鴨沂高校京都文化コースの生徒による展示案内シリーズ」と題する全9回の展示案内の動画を京都文化博物館公式Twitterにアップロードし公開した。動画は1回を1分以内とし、話す内容は教員・生徒・学芸員間で議論して決めた。内容のわかりやすさはもとより、実際にしゃべってみて、話しやすさを検討しながら、1つにつき数テイク撮影して、最終的には生徒の意見が主となって公開版を決めた。結果、第1回の動画は表示回数2,100回以上となっているから、かなりの回数を見ていただけたようだ。好評の試みとして、新たな手応えを感じた。

今年度はほかにも、戦後すぐの京都をカラー写真で紹介する「戦後京都の「色」はアメリカにあった!」と京都の伝統文化を紹介する「京の盆踊り展」でも、オンライン展示を準備している。

SNSを通じた高校生による展示案内
取材時のマスクはまだ慣れない

オンライン化の取組

なお、ここまでオンライン化の取組を新たな試みと語ってきたが、コロナ禍によって、急に始めたものと思われては少々正しくない。当館のデジタル・アーカイブ担当学芸員を中心に、以前から様々な挑戦をおこなってきた。例えば当館を中核館とする京都歴史文化施設クラスター実行委員会とセンサリー・メディア・ラボラトリーとの共同運営による「目を凝らそ」がある。「京都の路上で感じて、考える」をコンセプトにした試験的なメディアで、2019年度から計画し開始した。京都文化をオンラインで紹介するメディアと平易に説明してしまうと、学芸員による展覧会のギャラリートークをYoutubeで公開することと似たアイデアと思われるかもしれない。しかし、本プロジェクトの舞台は展示室内でなく外、紹介する内容も文化財保護法的な文化財ではなく日常である。博物館のおこなう重要な仕事に、普段価値に気づかれていないものに新たな価値を見出し、後世に継承したいと多くの方々に思ってもらえるよう普及する、言い換えれば「価値創造」があるならば、本事業は、それをデジタル空間で試みたものだ。当館にとってこれまでの博物館活動の拡張を目指した取組とも言ってよい。

「目を凝らそ」のトップページ

ほかにも、2018年度から筑波大学と文化庁の共同研究「文化財の活用を進めるための科学調査」の一環として、株式会社エリジオン、ライカジオシステムズ株式会社と当館が協力して作成した重要文化財旧日本銀行京都支店の3D点群データとVR、同年度から3年間かけて株式会社岡墨光堂に修理していただいた岩佐又兵衛筆の誓願寺門前図屏風に関する修理ドキュメントその成果に関する対談コンテンツ、上記実行委員会が国立情報学研究所とNPO法人連想出版と共に作成し展示した「重ね地図」サービス、NPO法人フィールドと当館で制作中の「平安宮跡出土考古資料のデジタルアーカイブ(仮)」など、コロナ以前からデジタル空間の活用を企画し挑戦してきた。

努力と工夫の焦点

このように振り返ると、コロナ禍で、たしかにオンライン化を進める機会は増えたものの、それは以前からのことであって、それが努力と工夫の焦点と書いてしまうと少々違う気もする。では、私たちは真に何を焦点にしていたのだろう。その一つは、上述の各事業で端的に表れているように、館内外との連携や関係性、いわば社会関係資本にあると思う。コロナ禍により、それが失われることを私たちはとても恐れた。これは、本ジャーナル6月号で福岡市美術館が「人とつながり続けるための努力」をおこなうと表明したことに通底する。その点では、同館の活動と比べるとまだまだだったという反省を含みつつも、当館でも博物館ボランティア用に研修動画を多数作成したことは、身近な人々とのつながりの工夫として記したい。

さらに関係性の拡張への努力として、博物館界隈の地域住民・組織等との連携も忘れずに記したい。当館では毎月1度、地域コミュニティとの定例会をもち、これまで約90回を数える。これも対面とオンラインを併用して、途切れず続けた。もっとも、続けることのみが目的ではない。これからのまちづくりへ貢献する連携事業をうみだし実施することがねらいだ。ここ数年、私たちは、都市部におけるまちづくりとして「みち」に焦点を当てた事業をおこなっており、今年11月には「みちの文化の創造」をコンセプトとする社会実験を企画している。これによって、次年度以降のみち・まちづくり活動に有用なデータや経験をえるとともに、ゆるやかながら、さらに幅広い人間関係の構築を図るつもりである。実験内容は今まさに検討最終段階だが、「人にみちを取り戻す」を合言葉に、車両通行止めをして、生活文化を学べる催事やまちづくりのライブ会議(井戸端会議?)などをみちでおこなうといったアイデアがあり、博物館もそのアクターとなる予定だ。みちという開放空間での社会実験は、「三密」を避けられる点で、コロナ禍でも意味あるものとなるだろう。それに、こうした地域社会との連携は、ダメージを受けている京都の活性化に博物館が寄与すると思う。

そしてまさしくこの点に、博物館の努力と工夫のもう一つの焦点があると思う。コロナ禍によって、いわゆる「ブロックバスター」展に代表される博物館の「ビジネスモデル」が成立しにくくなった今、経営のあり方自体が問われている。今後、展示偏重だった博物館機能の振り分け方あるいはその多角化が議論されるのだろう。その中で経営という観点から、オンライン化も、文化財公開の論理や技術に関する議論が進んだのと同様に、それをどう「ビジネス」と結びつけるか、データやコンテンツの有料化などを含めた検討もされるだろう。しかしそれらも博物館が所在する地域が疲弊したままでは机上の空論となりかねない。地域社会の活性化、それがコロナ禍で改めて博物館の努力の焦点として浮かび上がっていると思う。

(むらの まさかげ)

京都府京都文化博物館ホームページ