April 14, 2021

コロナ禍での一大学博物館の取り組み:一年を振り返って

[2021.4.14]

国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館館長代理
ICOM日本委員会副委員長
福野明子

昨今のミュージアムが取り巻く環境の変化を受け、現場で働く日本のミュージアム関係者の方々がどのようにこの未曾有の危機に立ち向かい活動を継続しているのか、「会員レポート:ミュージアムの現場より」と題してコラムをお伝えします。

1 .はじめに

大学博物館は所蔵するコレクションも多様であり、規模も様々である。ICOMの国際委員会の一つであるUMAC(University Museums and Collections 大学博物館とコレクションの国際委員会)のデータベースからも、数百年の歴史を持つ総合博物館から小さな展示室を中心とした大学博物館まで存在することがわかる。今回のジャーナルでは、コロナ禍の一大学博物館の状況を振り返り、国内外の大学博物館との情報共有について紹介したい。

東京都三鷹市にある国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館(以下、湯浅記念館)は初代学長である湯浅八郎博士の大学創設・育成に対する貢献を記念して1982年に開館した(図1)。大学構内にあり、鉄筋コンクリート2階建(建物面積1000.14m2/延床面積1331.30 m2)の独立した建物で、前川建築設計事務所が設計を手掛けている。主な所蔵品は湯浅八郎博士が収集した日本の陶磁器、染織品、木工品などの民芸品と、構内で発掘された旧石器から縄文時代の石器、土器、敷石住居址などの考古遺物である(図2)。常設展示に加え、通常は年3回の特別展や公開講座を開催し、学内学外者を問わず無料で公開している。館内は博物館実習など、学芸員課程の授業にも活用している。

図1 湯浅記念館外観

図2 湯浅記念館展示室

2 .コロナ禍の湯浅記念館、大学博物館としての対応

コロナ関連のニュースを連日聞くようになり国内の感染拡大の不安が募る中、湯浅記念館が最初にコロナの影響を受けたのは、公開講座の中止を開催前日に決定した2020年2月であった。学内的には、感染拡大を防止するためのもっとも早い中止の決断となった。

学内の動きとしては、3月中旬に危機管理委員会が立ち上がり、入構、授業方針、学生活動、建物閉鎖などについて検討され、卒業式と入学式の中止、春学期の全授業のオンライン開講が決定していった。3月末には教職員、在寮者と特別に許可を得た者以外は入構禁止となり、職員はテレワーク、フリーアドレスによる勤務が推奨され、緊急度が高い案件以外の業務は一時停止することとなった。筆者は、公共交通機関を使用せずに出勤できること、館内では密になる危険性が全くないなどから、この後数ヶ月間、ほぼ一人で館内にて仕事をする状態になった。

では、博物館としての業務・活動はどのようになっていったのか。例年2月から3月にかけて来館者数は減少するため、密になることはないと判断し、開催中だった特別展「ICUに眠るコレクション探訪」は予定通り3月13日まで開催した。つづく4月14日から開催予定であった特別展「よみがえる宮古島の祭祀 写真家、上井幸子と比嘉康雄が写した記憶」は学内研究者との共同企画であり、オープンへの望みを捨てることなく、開催の準備を進めた。ポスターやチラシも送付し(ただし、予定変更の可能性がある旨を記したシールを封筒に貼付)、展示設営を終えたところで、4月7日、緊急事態宣言が発出された結果、開幕を延期せざるを得ず、その後最終的に残念ながら中止することとなった。

以降どのように博物館活動を続けたのか−コロナの影響はしばらく続くと判断し、少人数のスタッフ(専任職員2名・嘱託1名、パートタイム職員2名と学内学生アルバイト)がリモートでも出来ることを洗い出し、実践することにした。まず、デジタルコンテンツの充実に取り掛かかった。幸いなことに、編集、英訳、広報、ウェブサイトの作成、さらには動画編集やイラストレーションに長けたスタッフが揃っており、適材適所、それぞれの能力を最大限に活かすこととなった(図3a、図3b、図4)。筆者は博物館とリモートのスタッフをつなぐハブとなって、業務の打合せとスタッフ間のコミュニケーションを維持するためにZOOMミーティングを1日に2回開催した。結果的にはこれが、ZOOMへの慣れにもつながった。

初めに自前で手掛けたのは、中止となった写真展の内容をオンラインで公開するための動画制作である。ジンバルなどの撮影機材を購入し、試行錯誤を重ねながらiPhoneで撮影、展覧会の共同企画者が会場を案内する動画を制作し、何編かに分けて公開した。また、つづいて公開講座の代わりにウェビナーでライブトークを配信し、後日、その録画を公開することもおこなった。幸いなことに大学は専門家の集団でもあるので、オンライン配信の方法などはITセンターや学修支援センターの助言をうけながら進めることができた。手探りではあったが試みを重ねることで運営のノウハウが蓄積され、公開講座はすべてウェビナーで開催することができるようになった(図5)。また、コロナ禍で北海道博物館が全国のミュージアムに呼び掛けて立ち上がった企画「おうちミュージアム」に参加することになったことも、デジタルコンテンツ配信への大きな後押しになった。ほかにも、過去の展覧会をスライドショーで紹介、ツイッターでの配信、ウェブサイトの視認性を改善するなどの整備などが進んでいった。

図5 ウェビナー舞台裏

昨年度の秋学期と冬学期には大学の授業形態も春の完全オンラインからハイブリッド式(オンラインと対面の組み合わせ)へと移行し、2021年度もハイブリッド式を発展させた形態は続くことが決まっている。このような状況の中、湯浅記念館としては2020年度以降、2021年度も予定を全面的に変更し、開館・活動方針を策定した。

湯浅記念館は、大学の構成員と学外者にも開かれた博物館である。博物館としての活動は他の博物館と重なるが、当館の場合、決定的に違うのが大学構内にあり、館内で授業を行うことだろう。また、学芸員は大学の事務組織の一員であると同時に学芸員課程の授業も担当している。そのような立場から大学博物館としての湯浅記念館が、まず対応すべきは学生・教職員・大学支援者であると考え、事態が収束するまで当面の間、大学の入構方針(大学の「新型コロナウイルス感染拡大防止のための行動指針」のステージ1が解除され、学外者の入構が許可されるまで)に従い、通常の一般開館はしないこととし、学生・教職員・関係者のみ日時限定で事前予約の上入館を可能とする方針をたてた。

ターゲットを学内関係者に絞ることによって、学内利用を促進することにシフトし、少しでもキャンパスに戻ってくる学生たちに対応したいと考えたのが一番の理由である。学内専用サイトも立ち上げ、特別展は、館の収蔵品を中心に構成した「湯浅記念館コレクション展」(シリーズ化:1から4まで開催予定)とし、密を避けるべく展示資料数を減らし、会場をゆったりと回れるように工夫した。また、学芸員課程関連の授業を率先して館内で開講することにした。2020年の秋学期からは館のエントランスホールを「教室化」し、博物館資料論、博物館情報メディア論、博物館展示論、博物館実習をハイブリッド、または(感染防止のために万全な備えをしたうえで)対面で開講した。一般公開していないからこそ実現したスタイルであり、スタッフは授業支援を最優先に注力することができた。オンラインと対面両方に対応するにはかなりのマルチタスク処理能力が必要だが、博物館とそのコレクションを授業の素材として利用できることは強みであった(図6、7、8)。

図6 エントランスホール 教室化
図7 館内表示
図8 授業用館内ポスター

湯浅記念館における感染症対策(2020年11月)

3.国内外とのつながり、そしてウィズコロナへ

国内には大学博物館の連携機関として、国立系の「大学博物館等協議会」、関西地域の「京都・大学ミュージアム連携」や「かんさい・大学ミュージアムネットワーク」が存在する。また、個別で大学博物館同士が連携をしているケースももちろんあり、國學院大学と西南学院大学、南山大学人類学博物館と明治大学博物館などがあげられるだろう。日本には多数の大学博物館があるが、やはり分野やコレクションが多様ということもあり、小さな館にとって横のつながりを持つことは難しいのが現状である。しかし、今回コロナ禍でUMACの仲間でもある東京農工大学科学博物館の齊藤有里加氏の呼びかけから始まった大学博物館ML(大学博物館関係者のメーリングリスト)で、大学博物館ならではの問題や悩みを共有し、情報交換する試みがおこなわれている。先の見えない状況下でのコミュニケーションは重要である。

そしてコロナ禍におけるプラスの影響として、海外の大学博物館とのコミュニケーションが増えたことがあげられる。ICOMの国際委員会の集まりもすべてオンラインになり、この危機的状況を乗り越えるために様々な試みが行われている。ここでは、UMACの事例を紹介したい。

UMACは、ICOMの倫理規程と大学大憲章を全面的に支持する、高等教育機関の博物館とコレクションの世界最大の国際フォーラム、専門家の集団であり、人材育成やコンサルティングに力を注いでいる。オーストラリアで開催する予定だった年次大会は2023年に延期となったが、オープンソースジャーナルである『UMACJ』は影響を受けることなく募集がおこなわれ、筆者がChairを務めるUMAC Awardも募集や選考も滞りなく実施、入賞者による発表と授与式は工夫を凝らしてオンラインで開催された。

また緊急時の取組みとしては、委員長の呼びかけにより、世界中のメンバーが、国・歴史・文化・背景を超えてコロナ禍での現状と問題を共有する機会が設けられた。6月から7月にかけてウェビナーシリーズ「UMAC POST LOCK DOWN WEBINAR SERIES」が、毎週金曜日に2回ずつ異なるタイムゾーンのメンバーを対象に開催された:Reopening for the Public 開館・再開・公開について (6/5)、Reopening Collections コレクションの再公開 (6/12)、Lockdown Lessons: Going Digital ロックダウンから学ぶ:デジタル化に向かう (6/19)、Lockdown Lessons: Online Teaching and Students ロックダウンから学ぶ:オンライン指導と学生 (6/26) 、Lockdown Lessons: The Near Future ロックダウンから学ぶ:近い将来・今後 (7/3)。これらのミーティングはUMACのウェブサイトから視聴することができる。また、それぞれのセッションに関連する情報も紹介されており、各国の状況や指針が入手できるようになっている。

従来希薄だった会員同士の交流が深まり、地理的には遠い国でも直面している課題は同じであるいうことを強く感じる一年でもあった。私たちは、コロナによるパラダイムシフトを経験することとなるわけだが、今年のUMAC年次大会のテーマ New Opportunities & New Challenges in Times of COVID-19「コロナ禍における新たなチャンスと新たな挑戦」が示すように、この状況から学ぶことができれば、先に進むことは可能だろう。まだまだ解決していかなければならない問題はあるが、国内外の機関との情報共有が進み、ネットワークをさらに広げることができれば、解決の手がかりがつかめるかもしれない。しばらくはコロナと共に活動していくことを念頭に、臨機応変に対応する日々が続くことになる。コロナの収束がなかなか見えず予断を許さない中で、学生、教職員、そして一般の人々の安全を確保できる最善の開館方法を考え、アクセシビリティーを向上していくにはどうすればよいかを考える毎日である。

(ふくの・あきこ)