第25回ICOM(国際博物館会議)

京都大会2019

2019年9月1-7日

基調講演

9/2(月)DAY2

隈 研吾

 建築家、東京大学教授。1954年生。1979年、東京大学大学院建築学専攻修了。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授を経て、2009年より現職。1997年「森舞台/登米町伝統芸能伝承館」で日本建築学会賞、2010年「根津美術館」で毎日芸術賞、その他、国内外からの受賞多数。近作に、サントリー美術館、浅草文化観光センター、アオーレ長岡、歌舞伎座、ブザンソン芸術文化センター、FRACマルセイユ、V&A Dundee等があり、国内外で多数のプロジェクトが進行中。新国立競技場の設計にも携わる。著書に『自然な建築』(岩波新書)、『小さな建築』(岩波新書)、『建築家、走る』(新潮社)、『僕の場所』(大和書房)、『広場』(淡交社)、『場所原論』(市ヶ谷出版社)等。

http://kkaa.co.jp/

©PEY INADA

講演タイトル:
森の時代 詳細

森の時代

講演日程:2019年9月2日(月) 10:55-11:25 会場:国立京都国際会館メインホール

 20世紀、人間は自然の力を過小評価するようになりました。私たちは皆、自然への敬意を失い、自分たちがすべてをコントロールできると誤解したのです。

 日本人はかつて、自然との付き合い方を知っていました。自然に立ち向かおうとしても無駄で、勝てる相手ではないということです。自然と共に生きていくには、自然への理解と敬意が不可欠であり、そうした賢明さにより、人々は家をあまり高くつくらないようにしていました。

 しかし20世紀を通して、人々は「強い」素材でできた「大きくて強い」建築を作ろうと、コンクリートや鉄を志向するようになります。木や石、土でできた伝統的な建物は、「弱い」、「時代遅れ」なものだと見なされました。コンクリートと鉄に支配された、インターナショナル・スタイルの近代建築は、人間と場所とのつながりを断ち切りました。

 私たちは今、「場所」を主役とする脱工業化社会に生きています。「物」の生産と「国家」を枠組みとした工業化の時代は去りました。「小さな場所の力」が見直される時代へと世界は転換し、建築もまた、再び人と場所をつなぐ媒介として変化しているのです。ミュージアムもまた人と場所とのつながりを強めるための、大事な道具になることが求められています。我々がデザインしたV&A Dundeeは、そのような意図のデザインです。

 講演では、「コンクリートの時代」から「森の時代」への変化の中で、私がどのように建築をデザインしているか、お話しします。

講演日程:
2019年9月2日(月) 10:55-11:25
会  場:
国立京都国際会館メインホール
Kodama(ITALY)

Kodama(ITALY)
Photo by Kengo Kuma & Associates

V&A Dundee(Scotland, UK)

V&A Dundee(Scotland, UK)
Photo by Hufton+Crow

梼原 木橋ミュージアム

梼原 木橋ミュージアム
Photo by Takumi Ota

 

 

9/3(火) DAY3

セバスチャン サルガド(Sebastião Salgado)

 写真家。1944年ブラジル・ミナスジェライス州生れ。現在はパリに在住。大学院で経済学を専攻した後、1973年パリにてフリーランスの写真家としてキャリアを開始。1994年レリア・ワニック・サルガド(Lelia Wanick Salgado)と共にアマゾンナス・イメージ(Amazonas Images)を設立し、以後自身の作品制作に取り組んできた。撮影のため訪れた国は100カ国以上。作品は報道や出版物で紹介されるほか、これら作品の巡回展を通じて、世界中の美術館やギャラリーで紹介されている。
 また、サルガドはその業績に対して数々の賞を受賞しており、フランス文化省のナショナルグランプリをはじめ、権威ある褒章の受章者でもある。その他、2016年フランス芸術アカデミー会員に選出、レジオン・ドヌール勲章のシュヴァリエを受章。アメリカ芸術科学アカデミーの名誉会員でもある。2019年にはアメリカ文学芸術アカデミーの外国人名誉会員に選出され、ドイツ出版協会平和賞を受賞している。
 近年は、ブラジルのアマゾンと、そこに暮らす先住民のコミュニティーをテーマにした撮影活動に取り組み、2021年に新たな著書の刊行と展覧会の開催を予定している。

©Yann Arthus-Bertrand

講演タイトル:
アマゾン熱帯雨林保護 ―ブラジリアン イニシアティブ― 詳細

アマゾン熱帯雨林保護 ―ブラジリアン イニシアティブ―

講演日程:2019年9月3日(火) 9:00-10:00 会場:国立京都国際会館メインホール

 アマゾンの森林破壊、牧畜や大豆プランテーションの開墾を目的とする原生林での大規模な野焼き、個人の金採掘者による河川の汚染、違法伐採者による未接触地域への侵入など、アマゾン地域の環境破壊に関する話は、毎日のように耳にされているはずです。これらはすべて事実であるのみならず、現実はさらに深刻です。

 世界最大の熱帯雨林アマゾンの破壊は、間違いなく進んでいます。その一方で、ブラジル国内のアマゾン熱帯雨林の81%は未だ手つかずのまま残されており、ブラジルにはこの残された森林を保護する共通の責任があります。その責任をいち早く果たせるよう、アマゾン一帯の保護と持続可能な管理に役立つ画期的な枠組みの整備に、私たちは率先して取り組む必要があります。アマゾン熱帯雨林を古くから守り続けてきた先住民は、これまで同様、この取り組みにおける中心的な役割を果たしてくれるでしょう。

 また、森林破壊も紛れもない事実であり、環境破壊は特に国有・私有地で最も深刻ですが、その60%以上は未だ森林に覆われ、手つかずのまま残されています。こうした非接触地域の実態を把握するため、私たちは長期間にわたる撮影旅行を通し、ブラジル国内のアマゾン熱帯雨林と共生する未接触先住民の生活を記録してきました。私が撮影したのは、クイクロ族、カマユラ族、ワウラ族などのアルトシングー地域に居住する先住民部族に加え、ゾエ族、アワ族、ヤノマミ族、アシャニンカ族、ヤワナワ族、スルワラ族、コルボ族などのアマゾン奥地で暮らす民族グループです。

 さらに、アマゾン川本流に流れ込む多数の支流が織り成す複雑な迷路や、雨季から乾季への変化に伴う水位の大幅な変化を地上や上空から撮影した写真、未接触地域の森林及びジャングルでの野焼きにより上空数千フィートの高さまで舞い上がる噴煙を上空から撮影した写真など、アマゾン全域をカバーするアーカイブを構築しています。

 本撮影に関する書籍の出版及び展示が、アマゾンの熱帯雨林や先住民を保護する必要性をより多くの方々理解していただくことにつながり、さらなる被害を生むことなく天然及び人的資源の活用を可能にする新たな方法が生み出されるきっかけとなることを願っています。

講演日程:
2019年9月3日(火) 9:00-10:00 
会  場:
国立京都国際会館メインホール
Chemical sprays protect this fire fighter against the heat of the flames.

Chemical sprays protect this fire fighter against the heat of the flames.
Greater Burhan, after the Gulf War. Kuwait, 1991.

Korubo members of the Pinu family.

Korubo members of the Pinu family.
Indigenous territory of the Javari Valley. State of Amazonas, Brazil. 2017.

Group of Waura fishing in the Piulaga Lake.

Group of Waura fishing in the Piulaga Lake. Upper Xingu, Mato Grosso Brazil. 2005.

 

 

9/4(水) DAY4

蔡 國強

 1957年中国福建泉州生まれ。1981年から1985年まで上海演劇大学美術学部で舞台デザインを学ぶ。それを機に絵画、インスタレーション、ビデオ、パフォーマンスなど多様なアートを組み合わせた作品を制作するようになった。生まれ故郷である泉州で火薬を用いた作品制作の実験を始め、その後1986年から1995年までの日本滞在中には、火薬の特性を追求し続け、のちに代表作である火薬を使った野外イベントを展開していくことになる。蔡國強の作品は、東洋哲学と現代の社会問題を根底に据え、文化と歴史に応答しようとするものであり、作品を見る者とそれを取り囲む広い宇宙の間をつなげていく。火薬を使ったアートやインスタレーションは、二次元の世界を超えて、社会と自然に係っていく力を感じさせる。
 1999年ヴェネツィア・ビエンナーレ「国際金獅子賞」、2007年「ヒロシマ賞」、2009年「福岡アジア文化賞」受賞。2012年には「第24回高松宮殿下記念世界文化賞」を受賞するほか、国際文化交流への優れた貢献に対して「米国国務院芸術勲章」を授与された5名のひとりに選ばれる。現在は米国ニューヨークで活動。

https://caiguoqiang.com/

Cai Guo-Qiang in front of his work Color Gunpowder Drawing for City of Flowers in the Sky: Daytime Explosion Event for Florence, Uffizi Galleries, 2018.
Photo by Yvonne Zhao, courtesy Cai Studio

講演タイトル:
私の美術館春秋―ミュージアムあれこれ考 詳細

私の美術館春秋―ミュージアムあれこれ考

講演日程:2019年9月4日(水)10:30-11:00 会場:国立京都国際会館メインホール

基調講演では、過去数十年にわたって世界中で行った一連のプロジェクトを通じて、私がミュージアムとどのように関わってきたかについてお話ししたいと思います。例えば、現在メルボルンのビクトリア美術館にて開催中の「兵馬俑と蔡国強展(Terracotta Warriors & Cai Guo-Qiang)」のこと、「なんでも美術館(Everything is Museum)」と名付けた一連のプロジェクトとして、建設が困難な地域、福島県いわき市の住民と行ったプロジェクトの経験、また、西洋美術の主要機関といえるモスクワのプーシキン美術館、マドリードのプラド美術館、フィレンツェのウフィツィ美術館、ナポリの国立考古学博物館での個展について、そしてニューヨークのグッゲンハイム美術館で企画した展覧会「Non-brand 非品牌」のことなど、世界各地のミュージアムで行ってきた数々の展覧会の経験を通じて、ミュージアムの役割について巡らした私の考察をお話ししようと思います。

伝統的なミュージアムが、どのように今日の芸術にインスピレーションを与え、そしてキュレーターが「シャーマン」の如くいかにして芸術家と芸術史を結びつけるのか?ミュージアムの建設が世界規模で流行し、現代美術が洗練され、エリート主義になっている時代においてこそ、ミュージアムが外国人客のための文化観光ブランドだけでない、地域社会にとってのミュージアムの役割とは何でしょうか?

講演日程:
2019年9月4日(水)10:30-11:00
会  場:
国立京都国際会館メインホール
Color Gunpowder Drawing for City of Flowers in the Sky

Color Gunpowder Drawing for City of Flowers in the Sky: Daytime Explosion Event for Florence, 2018
Photo by Wen-You Cai, courtesy Cai Studio

Footprints of History: Fireworks Project for the Opening Ceremony of the 2008 Beijing Olympic Games

Footprints of History: Fireworks Project for the Opening Ceremony of the 2008 Beijing Olympic Games, 2008
Photo by Hiro Ihara, courtesy Cai Studio

Heritage, 2013

Heritage, 2013
Photograph: Natasha Harth, QAGOMA
Courtesy: Queensland Art Gallery | Gallery of Modern Art