December 5, 2025

第27回ICOMドバイ大会2025 開催報告:博物館分野の新たな戦略・方向性を提示

2025年11月11〜17日にアラブ首長国連邦ドバイで開催されたICOM(国際博物館会議)第27回総会は、「急速に変化するコミュニティにおける博物館の未来」をテーマに、世界中から4,500名を超える専門家が参加しました。中東・アフリカ・南アジア地域(MEASA)で初めての開催となり、UAE政府関係者の出席のもと、国際的な対話と協力が大きく前進する機会となりました。

会期中は100を超えるセッションが行われ、UAE全土の文化施設へのエクスカーションも実施。閉会式ではアントニオ・ロドリゲス氏(アメリカ、前諮問会議長)が次期ICOM会長に選出され、執行役員(Executive Board Member)に栗原祐司・ICOM日本委員会副委員長(国立科学博物館副館長)が選出されました。日本からの執行役員就任は、36年ぶり4人目です。

また、ICOM-ASPAC(アジア太平洋地域連盟)の総務担当役員(Secretary)に福野明子・ICOM日本委員会副委員長(国立文化財機構理事)が選出されました。ASPACの2026年次会合は、11-12月頃に愛知県で開催する方向で検討中です。次回ICOM大会は、2028年8月27日~9月1日にオランダ・ロッテルダムで開催予定です。

主な成果

1. 文化財不法取引対策の強化
近年の博物館における盗難事例を受け、ICOMはUNESCO・UNIDROIT・INTERPOLとの連携を再確認。特にINTERPOLと共同で、世界の博物館のセキュリティ強化を支援する新たな共同作業イニシアティブを開始。

2. AIとミュージアム:ICOM×UNESCOの新グローバル・イニシアティブ
AIの倫理的活用、国際的なガイドライン整備、専門性向上を目的とする共同プログラムを発表。UNESCOのAI倫理勧告やICOM倫理規程に基づき、博物館のデジタル未来を支える枠組みづくりを進める。

3. ICOM倫理規程(Code of Ethics)改訂の進展
ETHCOMが改訂の方向性を発表。会員との公開対話を通じて、現代の価値観や課題に対応する倫理規程の更新が進められている。

4. 次期執行部の選出
2025〜2028年期の執行部が選出され、ロドリゲス新会長のもと、多様な16か国から構成される新体制が発足。2名の副会長(UAE・イラン)を含むバランスの取れた国際構成となった。

5. ICOMアワード(博物館における持続可能に配慮した取り組み実践)初開催
第1回受賞者はバルバドス博物館・歴史協会。島嶼コミュニティが抱える課題を若者主導で取り組む国際協働プロジェクトが評価された。

6. 採択された6つの決議(2025–2028)

  • 無形文化遺産と記憶を通じた次世代の育成
  • 危機時の博物館支援と収蔵品保護
  • 公正で倫理的・持続可能なデジタル未来
  • SDGs推進(若者・社会包摂・気候行動)
  • 緊急事態への備えとレジリエンス強化
  • 脱植民地化に関する常設委員会の設置

6つの決議のうち、ICOM日本委員会とペルー国内委員会が提案した決議案「(無形文化遺産と記憶を通じた次世代の育成)」が採択され、今後3年間のICOMの戦略的優先課題の一つとなった。

また、上記以外にも、プラハ大会で改正されたICOM規約に定めるMuseumの定義について解説するハンドブックが発行されました。ICOM日本委員会では、今後日本語訳を進めます。

原文はこちら(一部追記あり)
Outcomes of the 27th ICOM General Conference: ICOM Sets Strategic Direction for the Museum Sector