July 29, 2022
第3回 ICMS 日本委員会オンラインセミナー報告
[2022.7.29]
東京富士美術館
杉浦 智
第3回 ICMS 日本委員会オンラインセミナー
開催期日:2022年6月13日 午後5時から午後6時10分(日本時間)
開催形態:Zoomによるオンラインセミナー
ゲストスピーカー:英国・テートギャラリー・安全セキュリティ部長 バリー・パーマー氏
今回は、ICMS日本委員会として第3回目のオンラインセミナーに、英国・テートギャラリーよりミュージアム・セキュリティの専門家であるバリー・パーマー氏から「ミュージアムにおけるセキュリティ保護」についてご講演をいただく機会をもつことができた。
ここに、その内容の主なポイントを紹介する。
まず冒頭に「脅威がどこから来るものなのかを知ること」が大事な観点であるとされ、ミュージアムスタッフ・来館者・コレクションの保護と、公共のアクセスとセキュリティの両立、そして、セキュリティ対策と安心感を与える対策の両立、最後にスタッフが適切なスキルを身に着けること等々、具体的なポイントを示した。最も重要なのは、最高の計画を立てることではなく、最高の結果を達成することであり、それにはスタッフへ十分な説明後、すぐに行動できるように適切な装備と権限を与えることである。そのためには、机上での演習と、特定したリスクのシナリオに基づいた実地訓練の両方が必須であると力説された。
英国・ロンドンでは、長年にわたってテロ事件が多発している。そのため、地元警察との連携の重要性について強く主張されていた。特にテート・モダン美術館はロンドン・バンクサイド地区にあり、その地区の防御すべきエリアを地図で表記し、そのエリア内でのセキュリティ・パトロールの事例が紹介された。その大規模且つ衝撃的な内容の警備連携は我が国の体制との大きな違いを参加者に認識させた。
次に、The power of Hello「挨拶の力」、いわゆる接客スキルの重要性を指摘した。制服を着た警備員と私服警官との連携による見極め、そして、セキュリティ・プロトコールによる防御対策についての具体的な事例は参考になるものであった。トレーニングプログラムの実施による、周囲の環境・人を読み取る能力、いわゆる状況認識の向上、スキルアップの重要性を示唆していた。また、日本で言うところの“おもてなし”の精神に繋がるものがあるようにも感じることができた。
その他、講演内容のポイントとして、①入退室の管理、②近隣住民との情報共有と互いの協力、③対応策と被害軽減策の管理、④セキュリティ・オペレーションの中枢である管制室への情報ルート、⑤テロ攻撃に対する段階的阻止方法、⑥抜き打ち検査、⑦警察に応援や援軍を要請するために十分な時間を稼げるよう事件を長引かせることの必要性、⑧証拠を確実に記録・保存することの重要性、⑨建物の内部だけでなく、外部へも注意すること、⑩手荷物に関するルール作りをすることを促していた。
どんなに小さなことでも、あらゆる出来事について報告するよう奨励をする。それは、初めは心配になるような、悪いイメージを与えるような報告が多いが、やがて人々が通常の業務運営に慣れてくると、報告は少なくなり、集められた情報の質は向上してくるというものだった。
後に、日本のICOM会員に対して下記のメッセージがあったことを付記しておきたい。
「ICMSウェブサイトや出版物を活用し、何かあれば『ICMS』を是非とも役立てていただきたい。私たちは一つの大きな安心できるファミリーなのですから。私たちは力を合わせればより強くなれるということを忘れないでください。」
以上、本講演は通常であれば終日を要して行われる講義内容だが、約1時間に凝縮して行ったものである。
ICMS(アイシーエムエス)には、保安・防火・防災の分野の専門職やスペシャリストが参加しています。ICMSの目的は、教育・研修・援助を提供して、盗難・野蛮行為・火事・破壊から人間や文化財産を保護することです。ICMSが設置しているワーキンググループには、物理的セキュリティ、技術的セキュリティ、防火セキュリティ、防災体制、研修、出版物、規則などに関するものがあります。委員会のメンバーはセキュリティに関する出版物やニュースレターを受け取ります。メンバーは年次会議に出席することができ、この会議では博物館セキュリティの世界的な状況や最近の盗難などについて討論・分析が行われます。この会議は年ごとに異なる国で開催されています。さらにICMSは、米国博物館セキュリティ会議と協力して、ワシントンDCで展示会を開いています。この委員会は、ICOMとその会員にとって、セキュリティ・防火・防災の問題に関する最も大切なアドバイザーの役割を果たしています。http://icms.mini.icom.museum/