April 1, 2020

CIMCIM(楽器の博物館・コレクション国際委員会)at ICOM Kyoto 2019

[この文章は、ICOM京都大会2019報告書より、30の国際委員会がICOM京都大会2019期間中に行った活動報告を抜粋しています]

[京都大会での委員会テーマ]
Music Museums and Education
音楽博物館と教育

報告者:嶋 和彦(浜松市楽器博物館)

[開催日程]
9.2 @稲盛記念会館
柳川三味線歓迎演奏、研究発表

9.3 @国立京都国際会館
CIMCIM総会、研究発表

9.4 
@株式会社鳥羽屋 絹絃製造工程見学
@国立京都国際会館
ICOM-CIDOCと合同セッション
-研究発表

9.5 @国立民族学博物館
オフサイトミーティング
―ICOM-ICMEとの合同セッション
-研究発表、博物館見学

9.6 @浜松市楽器博物館
自主エクスカーション
—博物館、市内・近郊の楽器製造工場見学

鳥羽屋での絹絃製作見学

[京都大会概要及び所見]

1) 内容
今年はCIMCIMメンバーの参加は70人程度、うち発表者は17カ国40人であった。発表者の国別内訳は、イギリス6、ドイツ5、フランス3、スイス1、ノルウェー2、ロシア1、オランダ2、アメリカ6、ナンビア1,ブルキナファソ1、ジンバブエ1、アゼルバイジャン1、イラン1、中国3、台湾2,日本4である。他にインドネシア、アルゼンチンが参加。

2016年ICOMミラノ大会後のCIMCIM新体制の下、個人会員数は50%アップ、地域もアジアやアフリカに拡大した。欧米主体の楽器学や音楽学に加えて、非西洋楽器の考察、楽器学や音楽学以外からのアプローチも積極的に推奨されてきた。昨年に続きアフリカ、アジア諸国からの参加があり、多様な観点からの発表や他の国際委員会との合同セッションの実現は、その成果である。

今回のテーマMusic Museums and Education はICOM のテーマMuseums as Cultural Hubs のサブテーマとして位置づけられ、楽器や音楽を、研究者や演奏家等との1対1の関係のみではなく、近年の博物館の社会的役割、とりわけ教育への積極的な関わりや、教育に対して持つ潜在的な力についての様々な事例や研究を取り上げ、音楽や楽器の博物館の今後のあり方を探ろうとするものである。セッションは10のテーマ(CIDOC、ICMEとの合同セッションも含む)で構成され、36の発表がなされた。

2日は、京都にのみ伝承する柳川三味線の演奏で幕開け。日本での開催にふさわしいものとなった。続いてSound Space, Conservation Best Practice, Higher Education and Professional Training, Collection Highlight:East and Westの4テーマで発表されたが、イギリスのヴィクトリア&アルバート博物館が数年後にオープンを予定している音響展示や、台湾のCHIMEI博物館が開設したAVによる体感型オーケストラ展示、ジンバブエの教員養成大学でのダンスと音楽を統合した教育実践、ベルリン国立楽器博物館の、日本人物理学者田中正平が1893年にベルリンで製作した純正調オルガンについての報告などが印象的であった。

3日以降はAncient Traditions, Making and Sustaining Museums and Communities, School Systems and Educational Programs, Education and Exhibitionsをテーマに、少数民族のアイデンティティとしての楽器や音楽、古代音楽と儀式からの歴史の理解、消費社会における楽器の、伝統音楽の現代から未来への伝承等の取り組みが発表され、「楽器・音楽」が、音楽家だけでなく、社会の人々といかに関係するかについての考察が深められた。

4日の午前中は京都に江戸時代から続く絹絃の製造工房である鳥羽屋にて絹絃の製造工程を見学、日本の絹文化の歴史と技術を見ることができた。午後はThe Documentation of Music and Musical InstrumentsをテーマにCIDOCとの合同セッションで、音楽と楽器についての記録と発信の方法について様々な角度から発表された。

5日の国立民族学博物館でのICMEとの合同オフサイトミーティングには、CIMCIMメンバー約40人が参加。Diversity and Universalityのテーマで楽器へのアプローチについて理解を深めた。

6日は希望者による浜松市楽器博物館見学ツアーを実施し27人が参加。博物館見学と、ヤマハ株式会社の企業ミュージアムであるヤマハ・イノヴェーションロードの他、近郊に位置するヤマハ管楽器工場、河合楽器ピアノ工場を見学した。また楽器博物館にて、コレクションである江戸時代の尺八と箏の演奏を披露した。現代の最先端の楽器作りと製品、江戸時代のスタイルを残す伝世品とその音楽、の対照的な日本文化に触れていただいた。

総じて、従来の西洋音楽と楽器学中心の視点のみならず、非西洋音楽と民族の文化についての視点をCIMCIMメンバーが共有し、また日本の文化も可能な限り味わっていただけた有意義な大会であった。

国立民族学博物館でのオフサイトミーティング

2)京都大会の評価と課題 
CIMCIM理事や参加者からは一様に、多様な観点から数多くの研究発表があり、他国際委員会との合同プログラムを開催でき、これまでの連携や協力もさらに強めることができた。また大会本部による数々の日本文化体験プログラムのみならず、京都に存在する老舗絹絃製作工房の見学や三味線の歓迎演奏などのCIMCIM独自の日本文化プログラムが体験できたことに対して、京都でのICOM世界大会ならではのことで大変素晴らしいものであったとの意見をいただいた。大会の運営もきめ細やかですばらしかった。ランチも美しく美味しかったが、もう少し量が欲しかったとの意見がある。

エクスカーション(浜松市楽器博物館)

3)今後の展望
新理事の方針としては、今後とも他の国際委員会との連携や共同プログラムに取り組み、広い分野の博物館との連携を強化して、現代社会の中で音楽と楽器の博物館がなすべきことを探っていきたいとの考えがある。欧米ではすでにその具体的な展開が始まっている。日本の楽器博物館として、最大の課題は、欧米の動向に遅れないようにすることと、日本の楽器博物館がいかに相互連携していくかであるが、なかなか解決策が見えないのが現状であるため、今後ともその糸口を探っていきたい。