April 1, 2020

CIDOC(ドキュメンテーション国際委員会)at ICOM Kyoto 2019

[この文章は、ICOM京都大会2019報告書より、30の国際委員会がICOM京都大会2019期間中に行った活動報告を抜粋しています]

[京都大会での委員会テーマ]
Documenting Culture: a Culture of Documentation
文化の記録と伝承:ドキュメンテーションと文化

報告者: 嘉村 哲郎(東京藝術大学 芸術情報センター)

[開催日程]
8.31 @京都大学 東南アジア地域研究研究所
CIDOCワーキンググループ研究会

9.1 @京都大学 東南アジア地域研究研究所
CIDOCワーキンググループ研究会

9.2 @国立京都国際会館
CIDOC総会及び研究発表会

9.3 @稲森記念会館
CIDOC研究発表会、ポスターセッション

9.4 @国立京都国際会館
CIDOC研究発表会(COMCOL及びCIMCIMとジョイントセッション)

9.5 @大塚国際美術館
オフサイトミーティング

CIDOC オープニング(京都国際会館)

[京都大会概要及び所見]

1) 内容
2019年のCIDOC年次大会は、9月2から4日のいずれにおいても100〜120人程度の参加者が見られた。また、今回は開催地が京都ということもあり、日本からは8件の研究発表と7件のポスター発表があった。CIDOCでは、京都大会開催前となる8月31日と9月1日にデジタルストラテジWG(ワーキンググループ)の研究会を京都大学東南アジア地域研究研究所で実施した。本WGは、昨年の年次大会で正式に設立したWGであり、対面での研究会は今回が初開催となった。二日間に渡って行われた研究会は、ミュージアムが研究や教育活動を行っていく上で、日々進歩するデジタル技術に対してどのような対応または取組みを行っていくべきか、その指針の作成と内容について議論が行われた。

9月2日から始まった年次大会では、「文化の記録と伝承:ドキュメンテーションと文化」をテーマに、7件の独自セッションと2件のジョイントセッションの計9件の研究発表が行われた。独自セッションではSemantic models for Documentationが特に注目を集めており、CIDOCが開発を進めている博物館資料情報をデータで管理するための国際標準規格CIDOC-CRMと関連技術や事例発表、デジタル時代のドキュメンテーション方法や方針、資料情報のデータ管理について議論が行われた。その他に多くの参加者を集めたセッションDocumenting Cultureは、日本国内から数多くの発表者があり、これまで余り知られていなかった日本国内のミュージアムや文化に関するドキュメンテーションの取組みが海外に向けて発信できた良い機会となった。特に、国立国会図書館のジャパンサーチはeuropeanaのスモールスケールの取組みとして注目を集め、これから似たような取組みを行う予定がある国の参加者からヒアリングを受けるなど盛況な様子であった。

9月5日のオフサイトミーティングは、徳島県にある大塚国際美術館のシスティーナ・ホールにて「文化財の複製・保存・修復とドキュメンテーション」のシンポジウムが行われた(京都からの参加者84名)。シンポジウムでは、冒頭に複製された文化財の用途やその利用可能性の導入から始まり、日本の研究機関における文化財修復や複製の実例紹介、そして複製された文化財の取り扱いや考え方について、白熱した議論が展開された。特に興味深かった点は、ドイツの歴史的建築物について取り上げた例である。最近、ドイツにある歴史的建築物が修復や移設の過程で変容を遂げて現在の形として存在することになったが、実は長崎のハウステンボスには同じ建物がある。そして、長崎の建物は移設前の建物を複製して作られていたことから、現在のドイツにある建物と比較すると全く別のものに見えるという。過去に存在した本物が失われ、現在は複製物が過去の本物の形として唯一残った。すなわち、複製物も唯一のモノまたはホンモノとして扱うことが考えられるという。このように、複製物の唯一性やオリジナル性に関する議論が行われたが、より熟考が必要なテーマため、今後も継続して考察を進めていく必要があると締めくくられた。

今回、大塚国際美術館を訪問するオフサイトミーティングは、国内外の多くの参加者が初めての来館であり、館の規模や陶板絵画作品の品質に興味を持たれていた。また、オフサイトミーティングは多様な出身国の参加者で構成されていたことから、参加者同士の観覧の中で自国の著名作品が展示されていたならば、その国出身の参加者が、自国でしか知り得ないような内容を交えて作品解説するなど、ICOM参加者だからこその光景が散見された。今回、大塚国際美術館の全面協力で実施したオフサイトミーティングは、建物や陶板絵画のほか、美術館の活動に対して興味を持たれた方が多く、参加者の満足度が非常に高い有意義な会となった。

研究発表(稲森記念会館)

2)京都大会の評価と課題 
オフサイトミーティングやポストカンファレンスツアーを含めた5つの会議では、国や地域を超えた熱心な議論を行う場面が多く見られた。京都京都大会では、これまでにない大規模の発表申込件数があったこと、COMCOLならびにCIMCIMとの合同セッションを実施したことにより、会場の誘導や運営にやや手間取った部分が見られた点があった。ポスターセッションにおいては、通常の研究発表と同じ部屋内で行われていたことから、ポスター設置の準備が行われつつ研究発表が同時に行われていた点は、発表者および参加者からの評判が特に悪く、部屋を追加すべきであったと感じている。また、昼食の配布に関しては、より早い時間からの対応ができなかったのか、或いはどこで受取れるのか解り辛い等の声が聞かれ、誘導やサインの不足など運営に係るマネジメントの指摘・不満が見られた。しかし、京都大会全体のプログラムやソーシャルイベントの内容は総じて良い印象と反応であった。

オフサイトミーティング(大塚国際美術館)

3)今後の展望
CIDOCでは、CRMをはじめとするドキュメンテーション標準に関する規格の整備を継続すると共に実際の現場に導入するためのサマーワークショップ等の活動を活発化していく。さらに、ミュージアムのデジタル化に対応していくための指針策定や技術対応を今後の取組み課題に掲げ、これらはデジタルストラテジWGや本大会で加わったリンクトアートWG等ですすめられることになった。組織運営の課題では、CIDOC登録者数が増加している事もあり、世界各国からの意見が収集しづらい点が挙げられた。これに対応するため、ヨーロッパや北米、アジア、オセアニアの地域毎に意見を取りまとめて年次大会で議論する案が提示された。加えて、欧州のGDPRの問題によりCIDOCの会員情報が把握できないことが大きな課題として取り上げられ、会員への情報提供や連絡手段の検討が行われた。その結果、ICOM会員に対しては、ICOM会員ページに連絡先情報を掲載するように呼びかけが行われた。ただし、CIDOCに興味を持つICOM非会員に対しては引き続き対応方法を検討していくこととなった。日本におけるCIDOCの活動に関しては、国際標準規格であるCIDOC CRMの普及が全く進んでいないことから、国内で普及活動を展開していく必要がある。そのためにも、最新バージョンのCIDOC CRMの翻訳や日本の博物館関係者が参照できる技術書の提供や理解を深めるためのワークショップ開催等が求められる。