April 1, 2020

CIPEG(エジプト学国際委員会)at ICOM Kyoto 2019

[この文章は、ICOM京都大会2019報告書より、30の国際委員会がICOM京都大会2019期間中に行った活動報告を抜粋しています]

[京都大会での委員会テーマ]
The Future of Traditions: Paving the Way for Egyptian Collections Tomorrow
伝統の未来:次世代への布石

報告者:
河合 望(金沢大学)
田澤 恵子(古代オリエント博物館)

[開催日程]
9.2 @国立京都国際会館:研究発表

9.3 @稲盛記念会館:ICOM-COMCOLと合同セッション(研究発表)

9.4 @国立京都国際会館:研究発表及びCIPEG総会

9.5 @MIHO MUSEUM及び京都大学:オフサイトミーティング(エジプトコレクション見学)

9.10 @東京:ポストカンファレンス(International Symposium: Egyptological Research in Museums and Beyond

国立京都国際会館での会議風景

[京都大会概要及び所見]

1) 内容 
今年のCIPEG年次大会では、2日目(9月3日)のCOMCOLとの合同セッションも含めて合計27本の口頭発表がおこなわれた(最初の基調講演やmp4による録画上映も含む)。報告者の内訳は、アラブ首長国連邦から1名、エジプトから9名、フランスから1名、ドイツから4名、イタリアから3名、オランダから1名、南アフリカから3名、イギリスから6名、アメリカから6名、そして日本から8名の計42名である(共同発表者を含む)。開催国とは言え、例年1~2名であった日本人発表者が8名に増えたことは喜ばしいことであり、今後の更なる活動に期待が高まる。また、発表者以外の聴講者も合わせると連日100名を超える参加者があり、100部用意した要旨集は最終日開始時には全て捌けてしまい、最終日のみの参加者には配布できない事態となった。

9月2日と4日は、年次大会テーマThe Future of Traditions: Paving the Way for Egyptian Collections Tomorrowに沿って発表が行われた。2日の前半は、古代エジプト資料の展示方法をめぐる発表があった。3D技術を駆使してより理解度を深める展示に関する報告や、ミュージアムに人を集めるのではなく、ミュージアムが街中に出かけていき、あまりミュージアムに馴染みがない人々にミュージアム資料を鑑賞してもらう「Pop Up Museum」に関する興味深い報告があった。後半は、各ミュージアムの古代エジプトコレクション成立の歴史を追いながら、今後の活動の方向性を示す発表が続いた。

4日は、2日の後半部分の続きで各ミュージアムの古代エジプトコレクションの成立と今後の方向性などが報告された後、エジプト学の一端を担うスーダンの資料に関して、資料の再評価報告や近年開始されたプロジェクトについての報告がなされた。引き続いて、エジプトコレクションを所有するミュージアム同士の協働プロジェクトや、エジプト学専門家を置いていないミュージアムへのエジプト学者による学術協力の事例など、古代エジプト資料をめぐる種々のコラボレーションについて報告がおこなわれた。同国内のミュージアム同士の協力体制はもとより、国をまたいでの協力体制も確立されており、IT技術を駆使した最新の展示方法などと併せ、今後幅広い分野で古代エジプト資料が活用されていくことがうかがえる内容であった。

一方、9月3日のCOMCOLとの合同セッション(Museums As Hubs For Collecting: The Future Of Collecting Traditions)では、資料収集に関わる諸問題や収集された資料と地域社会との関わりについて報告・討議をおこなった。最初に、違法収集や出土地不明資料の問題、文化財の返還と共有というトピックの下、古代エジプト資料を自国(エジプト)の歴史コンテキストの中で検討する試みや、古代エジプト資料略奪対策をめぐるイギリスの事例がCIPEGから報告された。続いて、収集された資料をどのように地域社会と関わらせていくかに焦点を当てた発表がなされた。CIPEGからは、南アフリカとエジプト国内の地方ミュージアムに関して報告があった。最後に、グローバル化が進む現代における収集活動やコレクション活用に関する報告があり、CIPEGからは、古代エジプト資料も有するアメリカの大学美術館の取り組みに焦点を当てながら、大学とミュージアムの関係性の現状をめぐる報告と、古代エジプトの専門家の学芸員がいない日本の国立博物館が所有するエジプトコレクションの整理と活用に向けて古代エジプト専門家との協働が進められている現状と今後の展望が報告された。

9月5日のオフサイトミーティングでは、COMCOLと共に滋賀県甲賀市のMIHO MUSEUM見学を実施した後、CIPEGだけで京都大学総合博物館のエジプトコレクションの見学をおこなった。数は少ないながらも日本にもエジプトコレクションは複数存在しており、それらを海外のメンバーに紹介できたのは、日本のエジプトコレクションの今後の調査・活用に向けて重要な一歩であったと考える。

9月10日には場所を東京に移し、ポストカンファレンス(International Symposium: Egyptological Research in Museums and Beyond)を開催した。全体を文化財保護とミュージアム、フィールド調査とミュージアム、ミュージアム資料と研究、エジプトコレクションの未来の4つのセッションに分け、日本と海外双方の事例を報告し合った。日本でこれだけのエジプト学者を集めた国際シンポジウムは初めてと言っても過言ではなく、日本と海外の双方の関係者間で古代エジプト資料の幅広い活用・研究情報を交換することができたことは、日本が有する古代エジプト資料の今後の活用に更なる発展をもたらすことが明らかである。

MIHOMUSEUMでのオフサイトミーティング

2)京都大会の評価と課題 
オフサイトミーティングを含めた京都大会及びポストカンファレンスへのCIPEGメンバーの評価は大変高く、理事はもとより、参加したメンバー全員と言っても過言でないほど大勢の方々からお褒めの言葉をいただいた。「京都大会の質の高さは、プラハ大会準備室に大きなプレッシャーとなっているはずだ。」とのお言葉もあった。細かく行き届いたプログラムと運営に、ボランティアのサポートも微に入り際を穿っており、臨機応変に対応してもらえたこともクオリティの高さにつながったと思われる。

ポストカンファレンス(東京)

3)今後の展望 
今回の大会より本報告者の一人田澤が理事となった。欧米、アフリカ、アジアのメンバーが揃ったことで、これまでよりも更に国際的な活動を期待できる。それぞれミュージアム事情の異なる各地域のメンバーが情報交換と情報共有をおこなうことで、古代エジプト資料をめぐる諸問題の解決や活用に向けた新たな展開も見いだせよう。また、京都大会、ポストカンファレンスを通じて、各会員同士のネットワークもかなりの割合で構築された。各メンバー間個別の連携も望まれる他、ミュージアムに配置されたエジプト学者の数が圧倒的に少ない日本において、今後海外からの学術協力も可能になると考えており、そのような点からもCIPEGの活動は更に充実すると思われる。そして、その結果が2017年発刊のCIPEG Journal: Ancient Egyptian & Sudanese Collections and Museums にて、毎年幅広く公開されることを期待したい。