April 1, 2020

ICOMON(貨幣博物館国際委員会)at ICOM Kyoto 2019

[この文章は、ICOM京都大会2019報告書より、30の国際委員会がICOM京都大会2019期間中に行った活動報告を抜粋しています]

[京都大会での委員会テーマ]
Numismatic Museums as Cultural Hubs: Future Perspectives
文化をつなぐ貨幣博物館―将来への展望

報告者: 川仁 央(コインみゅーじあむ準備室)

[開催日程]
9.3 @国立京都国際会館:委員長・開催国挨拶;研究発表;拓本ワークショップ

9.4 @稲盛記念会館:研究発表;ICOMON総会

9.5 @造幣局/造幣博物館、尼崎信用金庫コイン・ミュージアム/世界の貯金箱博物館、黒川古文化研究所:オフサイトミーティング

拓本ワークショップ

[京都大会概要及び所見]

1) 内容 
ICOMON会員ではない大会参加者も含めセッションには約40名、オフサイト・ミーティングには37名の参加者があったが、オフサイト・ミーティング参加者名簿から確認できたICOMON会員は27名であった。その所属は、スミソニアン博物館(アメリカ)、ボンヤード財団文化機構(イラン)、マンディリ銀行博物館(インドネシア)、インドネシア中央銀行博物館、スイス国立博物館、スウェーデン王立貨幣博物館、ノルデア銀行博物館(ノルウェー)、パキスタン中央銀行博物館、リトアニア中央銀行貨幣博物館、マレーシア中央銀行博物館、メキシコ中央銀行、上海財経大学商学博物館、ナイジェリア中央銀行、フィリピン中央銀行、韓国中央銀行博物館、モザンビーク中央銀行である。

日本のICOMON会員3名は、京都会合の企画・調整と資金調達のため、日本博物館協会の指導を受けて「ICOM貨幣博物館国際委員会日本部会」を任意に設立し、同部会の目標を以下のように設定した。

1.「ICOM 京都大会」、「ICOMON 京都会合」を成功させるために最善をつくすこと。

2. 世界各地からの貨幣・銀行博物館関係者に充実した研究交流の機会を提供すること。

3. 世界の貨幣・銀行博物館コミュニティの強化に貢献すること。

4. 日本の貨幣・銀行博物館とその活動の現状、収集界を含めた貨幣界の現況を、刊行物、パンフレットなどによって伝えること。

5. ICOMONにおける日本メンバーのプレゼンスを向上させること。

同部会の活動の成果の1つが、会合参加者に配布した「ICOMON京都会合パック」である。造幣局、造幣博物館、国立印刷局、お札と切手の博物館、日本銀行貨幣博物館、七十七銀行金融資料館、常陽銀行常陽史料館、千葉銀行ちばぎん金融資料室、山梨中央銀行金融資料館、八十二銀行八十二文化財団スペース82、三菱UFJ 銀行貨幣資料館、百五銀行歴史資料館、山口銀行やまぎん史料館、日本貨幣商協同組合、泰星コイン株式会社、書信館出版株式会社、株式会社ワールドコインズ・ジャパン、日本貨幣協会、外国コイン研究会など、関係機関、金融機関、博物館・展示施設、貨幣業界、収集研究家団体などに事業案内、博物館・展示施設ガイド、刊行物、機関誌、専門誌の提供、寄贈をお願いし、さらにこれらを一括して収める古和同開珎銀銭をデザインしたトートバッグを寄贈いただいた。

発表セッションは、Roles of numismatic museums within the community(地域社会における貨幣博物館の役割)、Diversity and identity(多様性とアイデンティティ)、Financial education(金融教育)、Sustainability of numismatic collections(貨幣コレクションの維持)の4つのサブテーマで行われ、11件の発表があった。日本からは2件の発表を行った。

セッション枠内で、北宋銭の研究で高名な吉田昭二氏を講師に招き、拓本ワークショップ(Takuhon: Ink-rubbing Numismatic Archiving Workshop)を開催した。拓本は、東アジアの銭貨の記録・研究に独特の技法であり、200年以上前に江戸時代の収集家が作成した拓本帖の閲覧なども行った。

オフサイト・ミーティングでは、Experience the Diversity of Numismatic Museums in the Kansai Region of Japan(関西地域の貨幣関係博物館の多様性を探る)をテーマに、大阪の造幣局/造幣博物館、尼崎の尼崎信用金庫コイン・ミュージアム/世界の貯金箱博物館、西宮の黒川古文化研究所を訪れた。造幣局では、博物館見学の他に、工場見学と銭貨鋳造ワークショップも行った。地域密着型の活動を行っている尼崎信用金庫の施設では、貨幣文化に関連する施設の多様性を実地に見学した。黒川古文化研究所では、当日は休館日のところICOMON一行のために特別に開館し、日本の古札(藩札類)・初期近代紙幣、天正菱大判など古金銀貨幣の解説展示をしていただいた。バス移動中、難波宮跡、大阪城天守閣、この3 月に復元成った尼崎城天守閣、六甲の山並みなども車窓から案内した。

造幣局での集合写真

2)京都大会の評価と課題 
京都会合のためにICOM貨幣博物館国際委員会日本部会が企画した事柄の費用は、すべてカレンシー・リサーチ、コインみゅーじあむ設立準備室、泰星コイン株式会社、書信館出版株式会社からの協賛金によって賄った。主な支出項目は、ワークショップ参加者全員に配布した「拓本キット」(古銭を含む)、オフサイト・ミーティング移動のための小型バス2台の貸し切り、尼崎のホテルでのランチ(スタンダード、ハラール、ベジタリアン)などである。国立京都国際会館への物品送付、ワークショップ講師の受け入れという日本部会の要望に大会運営事務局から十分な協力は得られず、講師の受け入れも協賛金充当により大会参加登録の一日券を購入することで対応したが、日本部会が実現した事柄の多くについて参加者から「amazing」の声が聞かれ、会合は大成功であった。ICOMON総会では日本から理事も選出され、日本部会の5つの目的は達成されたと考える。

黒川古文化研究所の特別展示

3)今後の展望 
発表セッションの質疑応答では、キャッシュレス社会の進展著しいスウェーデンで子供たちへの現物無き「お金教育」が可能かなどの議論も行われた。こうした現代的な貨幣博物館の課題は、今後もICOMONが重要な論議の場となっていくだろう。ICOM総会での「博物館の定義」改訂案の採否については、立案においてICOMONへの意見聴取が行われていなかったため、委員会として反対した。なお、各国の中央銀行の代表者が多く参加する中、日本で開催されたICOMON会合においても、日本を代表する貨幣博物館である日本銀行の博物館のプレゼンスは一切なく、常設展示図録の寄贈依頼も断られたことは、日本の行政における制度的な課題として記しておきたい。ICOMON年次大会は2021年にポーランドのワルシャワでの開催が決まっているが、2020年の開催地が決まっておらず、現在ICOMON理事会において緊急課題としてメールでのやり取りやビデオ会議が頻繁に行われている。理事になった筆者も、これまでに培ってきた人脈と経験を生かして積極的にこの選考プロセスに参加している。