April 1, 2020

ICMEMO (公共に対する犯罪犠牲者追悼のための記念博物館国際委員会) at ICOM Kyoto 2019

[この文章は、ICOM京都大会2019報告書より、30の国際委員会がICOM京都大会2019期間中に行った活動報告を抜粋しています]

[京都大会での委員会テーマ]
Historical Heritage and Its Relevance Today
歴史遺産とその今日的意義

報告者: 東 自由里(京都外国語大学)

[開催日程]
8.28 @トゥールスレン虐殺博物館
プレカンファレンス、周辺関連施設視察とレセプション

8.29 @トゥールスレン虐殺博物館
プレカンファレンス、ラウンドテーブル討議

8.30 @トゥールスレン虐殺博物館
プレカンファレンス、ラウンドテーブル討議

9.2 @国立京都国際会館
FIHRM との合同セッション、研究発表、ICMEMO総会

9.3 @稲盛記念会館:研究発表、ワークショップ

9.4 @国立京都国際会館:研究発表、ワークショップ

9.5 @広島平和記念資料館メモリアルホール
オフサイトミーティング―、周辺関連施設視察

9.8 @沖縄 平和祈念公園関連施設
ポストカンファレンスツアー

9.9 @沖縄 国営沖縄記念公園、海洋講演、首里城公園
ポストカンファレンスツアー

9.10 @沖縄 対馬丸記念館、沖縄県立博物館
ポストカンファレンスツアー

ひろしま美術館での鏡割り

[京都大会概要及び所見]

1) 内容 
京都大会開催の直前(8/28-30)、カンボジアのトゥールスレン虐殺博物館に於いて、「ジェノサイド・記憶・平和」と題したプレカンファレンスが開催された。これは、カンボジア文化芸術省、UNESCOカンボジア支部、ICMEMOとの共催であり、会員40名ほど(現地関係者を除く)が参加した。

同館のアーカイヴズはユネスコ記憶遺産として登録されており、現在デジタル化が進められている。今回のプレカンファレンスでは、虐殺に関連する資料のデーターベースの構築と写真映像のデジタル化について、ルワンダ、エストニア、ポーランド、カンボジアの博物館関係者たちが研究発表を行った。ラウンドテーブル・ミーティングでは、アーカイヴズの保存作業中に遭遇する技術的、倫理的な問題について活発な討議が展開された。

ICMEMO はこれまでも多様な視点から議論が展開できるよう設立当初から積極的に他の国際委員会と合同で年次大会を開催してきている。京都大会でもICOMの加盟機関であるFIHRM(国際人権博物館連名)との合同セッションを初日(9/2)に設けた。テーマは「博物館は深遠なものをどのように伝えるか:大日本帝国の旧植民地からの声」、発表者は日本、台湾、中国から公募で選ばれた新会員6名。セッション参加者は80名ほどであった。とりわけ海外の参加者からは、日本と近隣諸国との歴史系の博物館紹介に触れる良い機会となったという声が多く寄せられた。

9月3日は、会場を稲盛記念会館に移した。仏教の世界観からみた「追悼」について専門家による講義もあり、「無の空間」を追悼の場でもあるメモリアル博物館で生かす意義について意見交換が行われた。事例報告の一つとしてICOMチェコ共和国の委員長とリディツェ国立記念館の館長を兼任する会員から、破壊された村を再建せずに保存している「無の空間」について紹介があった。

9月4日はアムステルダムのアンネ・フランクハウスから展示専門家による報告があった。博物館が展開する教育プログラム、とりわけ異なる文化と歴史の中で、アンネ・フランクの記憶をどのように活用されているか、同時通訳付きでスロバニア、台湾、コロンビア、日本の事例のが紹介された。

9月5日はリニューアルしたばかりの広島平和記念資料館本館と国立広島原爆死没者追悼平和祈念館を各館長の案内で視察した。その後はICMEMOのオフサイトミーティングを広島市、公益財団法人広島平和文化センターとの共催で広島平和資記念料館内メモリアルホールで開催した。国際シンポジウム「グラウンドゼロからの記憶、遺構、そして語り」には、ICOM一般会員、一般市民を含む約250名が参加し、スアイ・アクソイICOM会長、松井一實広島市長が開会の挨拶、「社会の記憶と個人の悼み―利害の狭間にあるメモリアルミュージアム」と題された基調講演を9・11メモリアル博物館の展示総責任者である会員が行った。原爆投下と同時多発テロ事件は全く違う歴史的事件であるが、追悼や展示方法の接点を探りながらメモリアルミュージアムが果たす役割について示唆に富んだ発表であった。その後は「ひろしま美術館」へ会場をうつし、同美術館の館長でもある広島銀行の池田晃治会長と地元関係者のご厚意により、多大なご支援を受けることができたおかげで、レセプションでは日本側とオフサイトミーティング参加者との交流で大いに盛り上がった。当日、NHK広島支局による取材で、参加者の感想、基調講演者の映像なども夕方のニュースで放映され注目を集めた。

京都大会を終えたあとも、沖縄でのICOM ポストカンファレンスが内閣府沖縄政策の企画で開催され、25名が参加した。その内12名がICMEMO会員であったのであるが、それは、視察先がICMEMOの活動と関係が深い、平和祈念公園関連施設施設が多く含まれていたからであろう。本ツアーではAVICOM, CAMOC、CIMCIM、ICMAT、ICOFOMなどの会員も参加しており、他の国際委員会に所属するICOM会員と活発な意見交換ができ国際的な人的ネットワークを構築するための貴重な機会となった。

世界遺産、原爆ドーム記念撮影

2)京都大会の評価と課題 
京都大会の前後を含むとプノンペン、京都、広島、沖縄と4つの場所で2週間にわたり国際会議が続いたが、委員長のことばを借りると「これまでの国際会議の中で最も強く、そして長く印象に残る」大会となった。特に広島で開催したオフサイトミーティングは、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、中国新聞でも記事となった。NHKに至っては、「ニュースウォッチ9」において基調講演者へのインタビューが全国放映された。これは、日本の博物館関係者だけではなく、一般市民にとっても博物館の社会的役割を再認識する好機となったといえよう。ひろしま美術館、広島市職員、広島平和記念資料館の学芸員、職員の方々が企画からロジ業務を細かく詰めて大奮闘して下さった。さらには広島市の助成金で同時通訳をつけることができた。海外からの参加者たちも日本側の尽力を高く評価していた。ICMEMO一同を代表してここに謝意を表したい。

広島でのシンポジウム会場

3)今後の展望 
ICMEMOは常に他のICOM国際委員会と国際団体と連携しながら活動を展開することを重要視している。EUROM(バルセロナ)、IHRA(ベルリン)、NIOD戦争・ホロコースト・ジェノサイド研究所(アムステルダム)とのネットワークは確立されており、博物館関係者だけではなく政策立案者、研究者との人的ネットワーク作りの強化はこれからも継続されていくであろう。 今年の理事選出選挙ではアジア諸国、アフリカ諸国、ラテンアメリカ諸国からの立候補者がでてきた。欧州の会員が多数を占めるICMEMOとしても大きな前進といえよう。他方で、日本の博物館関係者の中にICMEMO理事に立候補する者が少ないため今後に期待したい。2020年のICMEMO年次大会は10月26日―30日にアルメニア人虐殺博物館がホストとなり、ICOM-ICTOP(人材育成国際委員会)と共催で開催されることが決まっている。