April 1, 2020
ICME(民族学の博物館・コレクション国際委員会)at ICOM Kyoto 2019
[この文章は、ICOM京都大会2019報告書より、30の国際委員会がICOM京都大会2019期間中に行った活動報告を抜粋しています]
[京都大会での委員会テーマ]
Diversity and Universality(多様性と普遍性)
報告者: 飯田卓(国立民族学博物館)
[開催日程]
9.2 @国立京都国際会館:単独セッション―研究発表と総
9.3 @稲盛記念会館:単独セッション―研究発表
9.4 @国立京都国際会館:単独セッション―研究発表
9.5 @国立民族学博物館:オフサイトミーティング―博物館見学とCIMCIMとの合同シンポジウム
[京都大会概要及び所見]
1) 内容
今年の会議では、日本含むアジアからの参加者と欧米などからの参加者がほぼ半分ずつを占めた。9月2日から4日にかけておこなわれたセッション(合計3回、いずれも時間帯は午後)では、参加者がほぼ50名ずつだったが、他の国際委員会や国内委員会とのあいだを行き来していた者も少なくなく、実質的な参加人数は延べ人数に近く100名を超えると推測される。プログラムによると、30名の発表者の内訳はアジアから11名(うち日本は4名)、ヨーロッパから10名、北米から5名、アフリカから3名、オーストラリアから1名だった。日本からの発表者4名は、いずれも、来年に開館予定のアイヌ民族博物館に関する発表(1件)の共同発表者だった。日本からの参加者による発表が少ないのは残念だったが、後述する9月5日のオフサイトミーティングでは日本からの参加者による基調講演が2件おこなわれ、日本の民族学博物館の実情は十全に伝わったと思われる。また、発表者以外の参加者にも、日本から来た者が少なくなかった。
9月2日におこなわれた総会では、委員長と理事の改選がおこなわれた。
ICMEのセッションでは、毎年、植民地状況下で収集された博物館資料の返還が大きな話題になっている。しかし、そうした報道むけの大きな話題にとどまらず、デジタル・リパトリエーションと呼ばれる資料の画像共有や、無形文化遺産ないし知識・記憶の継承における博物館の役割など、人びとの参与を高めることで博物館の活動を幅広くしていくためのさまざまな実験的試みが議論されてきた。このことは、今年のICOM臨時総会で議論されていたミュージアムの定義や、テーマとなっていた「文化をつなぐミュージアム」、ICME独自のテーマであった「多様性と普遍性」にも深く関わっている。特定の歴史的来歴をもつ博物館資料をできるだけ文脈に即して異なる立場の人びととも共有することが、多様な文化をつなぎつつも普遍性をそなえたハブとしての博物館に至るための道筋だからである。なお、3日間に催された7つのセッションのタイトルは、それぞれ、「市民参画と社会的結束を進めるためのミュージアムの脱植民地化」、「先住民遺産の保護とモノとのコミュニケーション」、「デザインと学習のための対話」、「記憶、情動、属性」、「文化的・社会的アイデンティティの探求」、「多様性と普遍性を超えるための思考、設計、作業」、「博物館資料の返却と返還、調停と癒し」であった。
9月5日には、大阪府吹田市の国立民族学博物館(民博)でオフサイトミーティングをおこなった。今年のオフサイトミーティングは、ICMEのほかにCIMCIM(楽器の博物館・コレクション国際委員会)および民博関係者による合同ミーティングのかたちをとった。午前中、民博の活動に関わって特別展示場や収蔵庫、開発中の電子ガイドのデモンストレーションなどをグループに分かれて見学した後、午後はホテル阪急千里エキスポパークに移動して、シンポジウムと懇親会をおこなった。シンポジウムの基調講演としては、吉田憲司 国立民族学博物館長による「文明の転換点における民族誌博物館」と、嶋和彦 浜松楽器博物館前館長による「楽器は音楽よりも雄弁に話す」がおこなわれた。総合討論では、基調講演者とICMEとCIMCIM両国際委員会の前委員長、ならびにセッションで基調講演をおこなったクリスティナ・クレプス デンヴァー大学教授が登壇し、植民地時代の遺産とみなされることがある民族誌博物館の役割を現代的に刷新するためのさまざまな方策が討議された。また、楽器との関わりでは、オーセンティシティの維持活動などについて意見交換がなされた。
2)京都大会の評価と課題
京都での各セッションに関しては京都大会事務局が派遣した2名のボランティアスタッフが、また民博でのオフサイトミーティングに関しては民博に所属する窓口担当者の飯田卓が運営を補助し、大きな支障もなくたいへん高く評価していただいた。委員会との連携においては、京都大会までの委員会理事でありICME2019大会実行委員会リーダーでもあった黒岩啓子氏がはたした役割も大きい。また、来年に開館するアイヌ民族博物館が委員会の問題意識に沿ったかたちで開館準備を進めていることも、日本開催に結びつけて高く評価された。全体的にICOM京都大会への評価は高かったが、京都事務局からの返事の遅れや、参加受付およびレセプションにおける長蛇の列、さらには料理の不足に由来するサービスの一時中止などに関しては不満の声も聞いた。参加者数の多さを考えればいたしかたないことだが、同様の大規模な国際会議を開催するうえでは配慮していくべきだろう。
3)今後の展望
1) に述べた「植民地時代の遺産とみなされることがある民族誌博物館の現代的役割」に関しては、これまでICMEの年次大会で議論されてきたとおり、広範な市民(移民を含む)がさまざまなかたちで参画できるよう博物館をデザインしていくことが必要である。このことは、ダンカン・キャメロンの「フォーラムとしての博物館」の考えかたを日本に紹介した吉田憲司氏がオフサイトミーティングで基調講演をおこなったことで、あらためて確認された。たんに参画の可能性を開くだけでなく、積極的な参画を持続できる実質的なフォーラムを実現するには、たんに目標を定めるだけでなく、さまざまな実務的課題を解決していく必要がある。その試行錯誤の経験を共有する場として、ICMEは今後も重要な議論の場となり、ICOM全体の議論にも貢献していくと期待できる。