September 8, 2021

第2回 ICMS 日本委員会オンラインセミナー報告

[2021.9.8]

東京富士美術館
杉浦 智

昨今、ミュージアムにおけるセキュリティの重要性は国内でも重要視されつつあり、2021年にICMS(博物館セキュリティ国際委員会) の日本委員会が発足しました。2月15日に開催された第1回オンラインセミナーに続き、7月12日に第2回セミナーが開催されました。

第2回 ICMS 日本委員会オンラインセミナー
開催期日:2021年7月12日 午後6時から午後7時10分(日本時間)
開催形態:Zoomによるオンラインセミナー
ゲストスピーカー:英国・ヴィクトリア&アルバート博物館 文化遺産保護・セキュリティ部長 バーノン・ラプリー氏

ICMS(博物館セキュリティ国際委員会)には、保安・防犯・防災等の分野の専門職やスペシャリストが参加している。日本でも昨今の社会情勢の中で、コレクションの盗難や不正取引、また、入館者の安全確保、ミュージアム運営全体の危機管理等に係るセキュリティも、ミュージアムの重要な課題になりつつある。

今回は、ICMS日本委員会として第2回目のオンラインセミナーに、英国ヴィクトリア&アルバート博物館よりセキュリティの専門家であるバーノン・ラプリー氏から世界的な文化遺産保護についてご講演をいただく機会をもつことができた。セミナーでは、世界的な文化遺産保護にミュージアムとして参加することにより、ミュージアムをより安全に保護し、来館者とスタッフの安全につながっていき、世界のより多くのミュージアムが国際的な文化遺産保護という課題に取り組むべきであると力説された。

ラプリー氏はロンドン警視庁・美術骨董捜査部長として、美術品および文化遺産の盗難・略奪・密輸・贋作等の違法取引等の事件に関与する犯罪者の取締にも従事した経験を持ち、マーティン・ロス博士(前ヴィクトリア&アルバート博物館長)が立ち上げた「Culture in Crisisプログラム」の創設メンバーでもあり、その諸活動が紹介された。

このプログラムは、文化遺産の保護に関心を持つ人々を集め情報共有し、行動につなげるためのフォーラムを提供し、世界文化遺産の損失における問題に対し人々の意識を高めることを目的にしている。

さらに、ミュージアム以外の機関(大学、学校、法的機関、英国軍、国内および国際政府組織、人道保護団体等)との連携、そして遺産保護以外の分野においても関連するコミュニティとその景観を保護することに興味をもった人々の参加を許可しているとのこと。 また、国際的な文化遺産の保護に取り組むことによるミュージアムにもたらす価値についても触れられた。

とりわけ政府からの資金提供を受けているミュージアムは、国にとって価値のあるソフトパワーを提供する場として捉えられていることに触れ、外交関係が悪化した際、文化を通じた外交・交流は、対立した国家間のギャップをうめる懸け橋としての外交の最終手段でもあり、他国の文化遺産の保存やそれらを大切に扱うことに焦点を当てた展覧会は、非常に効果的なソフトパワーの効力を発揮することが証明されている。

政治において、特に国際政治ではソフトパワーはハードパワーのように強制するのではなく、人々を魅了し協力に導く力であり、言い換えれば、ソフトパワーは魅力的な人を惹きつける力を通し他者に対して共感できるものを形成することができると考察。まさに展覧会とはそれ自体が持つソフトパワーに一番の価値があるのかもしれないと結論された。まとめとして、他の文化の遺産やコレクションに対しての理解を示し、高く評価することは、自身のコレクションを守ることにもなると考察されていた。

最後に英国国民にイランの素晴らしさを発信した展覧会を例にあげ、当該展覧会がメディアとは違った角度でイランに対しての理解を促し、英国国民のイランに対する幅広い理解と、その文化的なアイデンティティ・歴史的な偉業に対する感謝を示す機会となり、英国政府の高官とその海外からのゲストを魅了してきたことを紹介した。

なお、セミナーの参加者は、ドイツ・ビンゲン市の重要文化財となっている「ヴィラ・ザクセン総合文化センター」と、英国の重要文化財である「タプローコート」を含め、国内外から合計84名であった。

今後もICOM-ICMSとの国際交流、とりわけ、海外の様々なセキュリティ最新情報収集と共有、国内外のミュージアムの人的セキュリティ・ネットワークの拡大等を含め、博物館・美術館のセキュリティ向上のため尽力して参りたい。

ICMS(博物館セキュリティ国際委員会)とは
ICMS(アイシーエムエス)には、保安・防火・防災の分野の専門職やスペシャリストが参加しています。ICMSの目的は、教育・研修・援助を提供して、盗難・野蛮行為・火事・破壊から人間や文化財産を保護することです。ICMSが設置しているワーキンググループには、物理的セキュリティ、技術的セキュリティ、防火セキュリティ、防災体制、研修、出版物、規則などに関するものがあります。委員会のメンバーはセキュリティに関する出版物やニュースレターを受け取ります。メンバーは年次会議に出席することができ、この会議では博物館セキュリティの世界的な状況や最近の盗難などについて討論・分析が行われます。この会議は年ごとに異なる国で開催されています。さらにICMSは、米国博物館セキュリティ会議と協力して、ワシントンDCで展示会を開いています。この委員会は、ICOMとその会員にとって、セキュリティ・防火・防災の問題に関する最も大切なアドバイザーの役割を果たしています。http://icms.mini.icom.museum/