April 1, 2020

AVICOM(オーディオビジュアル及びソーシャルメディア新技術国際委員会)at ICOM Kyoto 2019

[この文章は、ICOM京都大会2019報告書より、30の国際委員会がICOM京都大会2019期間中に行った活動報告を抜粋しています]

[京都大会での委員会テーマ]
Audio-Visual and Social Media as Tools of Research, Documentation, Information and Communication with the Public
調査研究、ドキュメンテーション、情報、そして公衆通信の手段としての視聴覚とソーシャルメディア

報告者: 石原 香絵(NPO法人映画保存協会)

[開催日程]
8.28 @上海歴史博物館:理事選挙、F@IMP授賞式

9.2 @国立京都国際会館:研究発表、授賞式

9.3 @稲森記念会館:研究発表

9.4 @国立京都国際会館:研究発表、総会

9.5 @アジア太平洋無形文化遺産研究センター、堺市博物館、NHK大阪放送局、大阪歴史博物館:オフサイトミーティング―エクスカーション

AVICOMを紹介する創設メンバーで副委員長のマイケル H. ファーバー氏 (元コマーン野外博物館/ドイツ)

[京都大会概要及び所見]

1) 内容 
AVICOMは視聴覚、最新技術ならびにソーシャルメディアを駆使して収集やサービスの提供に従事する専門家によって構成される。23名が発表を行った3日間の研究発表には、理事や発表者およびその関係者を含め、毎回35名前後が参加した(初日と3日目は時間帯によって50名を超え、座席が不足することもあった)。国や地域の内訳は、ヨーロッパ12名(ハンガリー3名、イタリア2名、デンマーク、チェコ、ドイツ、スコットランド、フランス、ギリシャ、トルコ各1名)、アジア8名(中国4名、台湾3名、日本1名)、北米2名(カナダ、メキシコ)、オセアニア1名(オーストラリア)――ただしヨーロッパの7名とオーストラリアの1名は新旧理事、来日されなかったヤーノシュ・タリ委員長(元ブダペスト民族博物館/ハンガリー)はビデオメッセージによる参加であった。

9月2日は、「AVICOMの過去、現在、未来:コミュニケーションの変化に伴う役割の変化」と題して、前回のミラノ大会の初日同様、理事4名がAVICOM設立の1991年から現在に至る歴史を振り返り、ミュージアム環境のデジタル化に対応するため、委員会の名称を変更してデジタル技術やソーシャルメディアへと重点テーマを移した経緯を説明した。特筆すべきは、議事録等のAVICOM関連資料のデジタル化プロジェクトである。イルディコ・フェイェシュ氏(ハンガリー国立博物館)によると、AVICOMは本格的なアーカイブズを構築している唯一のICOM国際委員会であるという。休憩に続いて、「革新的メディア:ドキュメンテーション、復元、再構築、パブリックコミュニケーション I」をテーマに4名が発表を行った。

ところで、AVICOMの最も重要な催事は映像祭「F@IMP 2.0」である。2019年は、日本からエントリーした「教室ミュージアム 海のめぐみをいただきます!展」のミニプロジェクションマッピングが見事「教育&アウトリーチ部門」の銅賞を受賞し、ICOM-ICEEの窓口担当でもある渡辺友美氏(お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンター)が京都大会直前の8月28日に上海市歴史博物館で催された授賞式に参加した。京都でも初日の研究発表の後に授賞式が催され、上海の授賞式に参加できなかった各部門の受賞者に賞状とトロフィーが授与された。

9月3日は、引き続き「革新的メディア:ドキュメンテーション、復元、再構築、パブリックコミュニケーション II」をテーマにした5名が発表後、「データベースの持続可能性」へと移り、さらに4名が登壇した。この枠で発表した鈴木伸和(映画保存協会)は日本から唯一の発表者となった。この日の最後に、新たにAVICOM委員長に就任するアレシュ・カスパ氏(ヤン・アモス・コメニウス博物館/チェコ)より、次回2022年9月のICOMプラハ大会に関する短いプレゼンも行われた。なお、カスパ新委員長は自らの発表に加え、全セッションのビデオ撮影も担当した。

9月4日は、「メディアによるインクルージョン強化のための障壁削減」をテーマに5名が発表を行った。最後に、理事を主な参加者として「AVICOM総会:メディアを介したパブリックコミュニケーションの機会」が開かれ、会計報告と新理事紹介のほか、次回「F@IMP 2.0」の日程等が議論された。

9月5日のオフサイト・ミーティング(バスツアー)にはボランティアを含む21名が参加し、アジア太平洋無形文化遺産研究センター、堺市博物館、NHK大阪放送局、大阪歴史博物館を見学した。最新の放送技術は難解過ぎたとの感想も聞かれたが、デジタル技術を積極的に展示に取り入れている複数のミュージアムの見学をこの一日に盛り込むことができた。ツアーの手配から当日の同行まで担当してくださった京都国立博物館のヘルフェンベルガー・ファビエン氏には記してここに感謝したい。

お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンターに贈られた賞状 とトロフィー(渡辺友美氏撮影)

2)京都大会の評価と課題 
ミラノ大会と比較すると若い世代の実務者が増え、活気溢れる研究発表となった。ただし、様々な事情で5名(中国3名、イラン、スコットランド各1名)もの登壇がキャンセルとなり、同時通訳がなかったためか、日本からの発表者が1名(参加者も5名以下)に留まったのは残念であった。各発表は原則15分と短く、質疑応答の時間も限られ、個々のミュージアムの事例紹介に終始した感は否めなかったが、休憩時間等には参加者同士の交流が見受けられ、熱心に情報共有する姿が印象に残った。ICOM全体の動向を鑑みれば、今後のAVICOMは、地球環境に影響を与えるE-ウェイスト(電子廃棄物)や、デジタル媒体の長期保存コストに関する深刻なトピックにも踏み込むべきであろう。他の国際委員会との合同セッションが実現すれば、多様な視点からの議論が深まるのではないだろうか。

稲盛記念会館での研究発表の様子

3)今後の展望 
視聴覚資料を専門に扱うミュージアムの参加が皆無である一方、「デジタル技術を活用している」という共通項を持つ自然史系や考古学系等、設立の時期も規模も背景も異なるミュージアム関係者が同席しているところにAVICOMらしさが感じられた。日本のミュージアムの強みを活かせる国際委員会の一つであるだけに、ICOMプラハ大会に向けて、国内のミュージアム関係者や研究者の新規参加に大いに期待したい。委員長に就任したカスパ氏が館長を務めるヤン・アモス・コメニウス博物館は、中央ヨーロッパ唯一のミュージアムフィルムの祭典「MUSAIONFILM」を主催している。日本にも独自に映像を制作しているミュージアムは少なくないと思われ、「F@IMP 2.0」にも積極的にエントリーしていただきたい。